④
我崎高校にて。
校舎内で、使われていない倉庫があった。現在は不良たちの溜まり場として使われており、一般の生徒たちは近づくことはなかった。
その倉庫の中に、まるで王のごとく君臨している男子高校生がいた。
噂の播磨兼である。
現番長である兼の元に、一人の不良が何事かを耳打ちする。
その耳打ちの内容に、彼はニタリと笑った。
「はっ、古臭い喧嘩番長様のお戻りねぇ。ちょうどいい。今の埼玉の番張ってるのは誰か、わからせてやろうじゃねぇか」
鼻で笑って、兼はガタリと音を立てて立ち上がった。ポケットの中に手を突っ込んで、悪い顔をして手下を連れ立って、倉庫の扉を開けた。
一方で、京と虎徹は。
馴染みの駄菓子屋さんでソフトクリームを食べていた。
「うまいっすね、兄貴!」
「ああ」
このなんともいえない懐かしい甘さ。幸せである。
「やっぱ、埼玉にいるならこれを食わなきゃな」
「うっす!俺も兄貴とまたこのソフトクリームを食べれて幸せっす!!」
「そうか」
いつも通りの反応にいつも通り返して、京は最後の一口を名残惜しげに食べた。
「よし」
虎徹もそれを見て慌ててパクパクと残りのソフトクリームを食べ切る。
ベンチから立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだ。
「行くぞ」
「…っ!」
あまりの格好良さに、虎徹は息を飲んで顔を赤くする。
「一生ついていきます!兄貴ぃー!!!」
テンションが高い虎徹をガン無視し、京は歩き出した。
我崎高校につくと、一人の不良が校門で仁王立ちしていた。
「伊吹京だな」
「ああ」
「うちのトップが待ってる。ついてこい」
くいとあごをしゃくって、不良が京たちを誘った。虎徹と京は目を合わせて、肩をすくめる。
そして、大人しくついていくことにした。
「おう、来たな」
ふんと鼻を揺らして、兼が言った。
「来たぞ」
バカ真面目にそう返す京に、兼は拍子抜けしたようにガクッと肩の力を抜いた。
「兄貴…」
虎徹がその隣で苦笑する。
「そ…それで?てめぇは何しにわざわざこんなところに来たんだよ、あぁ?」
仕切り直しだと言わんばかりにそう言う兼に、京はビッと隣の虎徹を親指で差した。
「こいつの怪我への詫び入れだ。世話になったみてぇだな」
「兄貴ぃ…!」
今度は感動の眼差しを向ける虎徹である。
「けっ、格好つけやがって。子分にいいところ見せようっていったってそうはいかねぇ。なぜなら、てめぇは今から俺にボコされるんだからよ!!」
言いながら、兼は拳を振り翳した。それを力一杯京に向けて振り下ろした。
パシっと軽い音が鳴って、いとも簡単にその拳は京によって受け止められてしまう。
それに、周囲がざわついた。
「なんだ、こんなもんか…」
周囲の様子にはかまいもせずに、京はニヤリと口の端を上げた。
「たっぷりと、礼はさせてもらうぜ」
虎徹はそっと、京のそばを離れるのだった。
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