我崎高校にて。

 校舎内で、使われていない倉庫があった。現在は不良たちの溜まり場として使われており、一般の生徒たちは近づくことはなかった。

 その倉庫の中に、まるで王のごとく君臨している男子高校生がいた。

 噂の播磨兼である。

 現番長である兼の元に、一人の不良が何事かを耳打ちする。

 その耳打ちの内容に、彼はニタリと笑った。

「はっ、古臭い喧嘩番長様のお戻りねぇ。ちょうどいい。今の埼玉の番張ってるのは誰か、わからせてやろうじゃねぇか」

 鼻で笑って、兼はガタリと音を立てて立ち上がった。ポケットの中に手を突っ込んで、悪い顔をして手下を連れ立って、倉庫の扉を開けた。




 一方で、京と虎徹は。

 馴染みの駄菓子屋さんでソフトクリームを食べていた。

「うまいっすね、兄貴!」

「ああ」

 このなんともいえない懐かしい甘さ。幸せである。

「やっぱ、埼玉にいるならこれを食わなきゃな」

「うっす!俺も兄貴とまたこのソフトクリームを食べれて幸せっす!!」

「そうか」

 いつも通りの反応にいつも通り返して、京は最後の一口を名残惜しげに食べた。

「よし」

 虎徹もそれを見て慌ててパクパクと残りのソフトクリームを食べ切る。

 ベンチから立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだ。

「行くぞ」

「…っ!」

 あまりの格好良さに、虎徹は息を飲んで顔を赤くする。

「一生ついていきます!兄貴ぃー!!!」

 テンションが高い虎徹をガン無視し、京は歩き出した。



 我崎高校につくと、一人の不良が校門で仁王立ちしていた。

「伊吹京だな」

「ああ」

「うちのトップが待ってる。ついてこい」

 くいとあごをしゃくって、不良が京たちを誘った。虎徹と京は目を合わせて、肩をすくめる。

 そして、大人しくついていくことにした。

 


「おう、来たな」

 ふんと鼻を揺らして、兼が言った。

「来たぞ」

 バカ真面目にそう返す京に、兼は拍子抜けしたようにガクッと肩の力を抜いた。

「兄貴…」

 虎徹がその隣で苦笑する。

「そ…それで?てめぇは何しにわざわざこんなところに来たんだよ、あぁ?」

 仕切り直しだと言わんばかりにそう言う兼に、京はビッと隣の虎徹を親指で差した。

「こいつの怪我への詫び入れだ。世話になったみてぇだな」

「兄貴ぃ…!」

 今度は感動の眼差しを向ける虎徹である。

「けっ、格好つけやがって。子分にいいところ見せようっていったってそうはいかねぇ。なぜなら、てめぇは今から俺にボコされるんだからよ!!」

 言いながら、兼は拳を振り翳した。それを力一杯京に向けて振り下ろした。

 パシっと軽い音が鳴って、いとも簡単にその拳は京によって受け止められてしまう。

 それに、周囲がざわついた。

「なんだ、こんなもんか…」

 周囲の様子にはかまいもせずに、京はニヤリと口の端を上げた。

「たっぷりと、礼はさせてもらうぜ」

 虎徹はそっと、京のそばを離れるのだった。

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