⑥
京は、鈴木と杉浦と、もっと仲良くなりたいなと思った。
だが、それを口にするのは流石に気恥ずかしさが勝る。それに、彼らはとても優しい。目つきも態度も悪い自分が突然「俺ともっと仲良くなってほしい」なんて言ったら、同情や恐怖心から、嫌でも断れなくなってしまうかもしれない。それは絶対に避けたい。ので。
彼は今、とても悩んでいた。どうすれば、彼らともっと仲良くなれるのだろうか。
一連の騒動からひと段落した、お昼休み。京はなんとなく一人になりたくて、ふらりと中庭に出てきていた。ポカポカと温かな太陽の光が、いい感じに彼の少し暗くなっていた心を照らした。
(…平和だ…)
もしも自分がまだ埼玉に住んでいたら、こんな時間は存在していなかっただろう。
ゴロリと暖かい芝生の上に寝転がる。この高校の中庭は、存外広いものだ。
忘れかけていたが、今日の放課後あの二人と帰りに寄り道をして帰る約束をしていたのだ。その時、さりげなく二人のことを聞いてみようか。何気に転向してきてからずっとあの二人と行動を共にしているが、よくよく考えてみると自分はあまり彼らのことを知らないのだ。
仲良くなるためには、やはり相手のことを知るのが一番大切なことだろう。たぶん。
ふむと一つうなずいて、京は今度こそ何も考えずに元気に空に在る太陽を、眩しそうに見上げる。
「…青春、できてっかな、俺」
それを確かめる方法など知らない。でも、できていればいいなと思う。少なくとも、埼玉にいた時では考えられない穏やかな生活を、今送ることができていることに幸せを感じていた。
教室に戻ると、鈴木と杉浦が京の姿を認めてほっとしたように肩を撫で下ろした。
「いたいた伊吹」
「お前どこ行ってたんだよ〜、昼休み終わっちまうだろ」
その反応に、京は不思議そうに首をかしげる。
「…悪い。何か用だったか?」
京の言葉に、二人は呆れたように目をすがめる。
「いや…お前…飯食わないの?」
そこまで言われて、ようやく京はなぜ彼らが自分を探していたかを理解した。そして、小さく笑う。
「食べる。待っててくれて、ありがとな」
「「どういたしまして」」
そして、いそいそと自分の席に椅子を集めて座る二人の姿を見て、京はこんな穏やかで幸せな時間が、ずっと続けばいいなと、心から願ったのだった。
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