生物の実験にて。

 鈴木と京は、ホルマリンにつけられたカエルを前にして、げんなりと顔を歪めた。

「……グロかった」

 素直な鈴木の感想に、京も無言でうなずく。

 今回の実験はカエルの解剖だったのだ。生々しい臓器やらなんやらを目の当たりにして、クラスメイトたちの気分もすっかり落ち込んでいる気がする。

「大丈夫ですか…?」

 心配そうに眉を寄せる美鈴に、二人は乾いた笑みを返した。

「…結城は平気なんだな。意外だ」

「美鈴はゾンビ映画とかグロテスクなやつ、結構好きだよね」

 辟易とした様子の亜衣が言って、比較的通常通りな様子の杉浦がへぇと意外そうに目を丸くした。

「人は見た目によらないなぁ」

「グロテスクなものが好きというか…不思議なものが、好きなんです」

 少し恥ずかしそうにはにかんで、美鈴は俯いた。

「幽霊とか?」

 鈴木が小首をかしげる。京がその単語に、ぴくりと肩を動かした。

「幽霊…も、不思議で好きです」

 心なしか顔を輝かせる美鈴に、鈴木と杉浦はますます意外そうに目を丸くする。

「ほんと、意外だなぁ。結城みたいな女子は幽霊とかに一番怖がっていそうなのに。な、伊吹」

 鈴木が軽く京を膝でこづくと、彼は我に帰ったようにはっとした。

「あ、ああ。そうだな」

 その反応に、鈴木と杉浦は顔を見合わせてにやりと笑い合った。まさに悪人面だ。

「あれれー、まぁさか伊吹くん」

「幽霊が怖いとかじゃあ、ないよなぁ??」

 京は、今までなぜ割と正反対な所が多い、鈴木と杉浦が親友という関係性にあったのか少しばかり疑問を抱いていた。

 が、今それがようやくわかった。なんてテンポの良いいじりだろうか。いっそ感服する。

「怖くない」

「えー?ほんとかなぁ」

「京くん、結構可愛いところあったりしてぇ?」

 によによと口元に苛立ちを覚える笑みを浮かべる二人の顔を、京は眉間にシワを寄せ、無言で

「「え」」

 突然目の前が暗くなって、二人は声を上げる。と、次の瞬間顔面に締め上げられるような激痛が走った。

 声にならないうめき声を挙げる鈴木と杉浦を、京は容赦なく握力だけで締め上げていく。

「い、伊吹くん…それ以上やってしまうと、お二人が幽霊になってしまいます…!」

 カエルの解剖では顔色一つ変えなかった美鈴が、うっすらと青ざめて京を止める。一方で、その隣で見ていた亜衣が彼女の発言に吹き出した。

「あはは!いい表現するね、美鈴」

「わ、笑い事じゃないよ…亜衣ちゃん」

 苦笑する美鈴を置いて、亜衣は京の肩にぽんと手を置いた。

「伊吹、もっとやっていいと思うよ」

 それに、彼は無言でうなずき、ギリギリと力を込めていく。

「い…伊吹様…ガチで結城…の言う通り、そろそろ俺らが幽霊になるんでっ…!」

「お手を退かせてくださいっ…!!」

 その必死な訴えに、京は軽くため息をついて手の力を緩めた。すっと両手を下ろす。

「し、死ぬかと思った…」

「右に同じく…」

 盛大なため息をつく鈴木と杉浦に、今度は京がにやりと笑った。

「俺は幽霊、怖くないからな」

「「…はい」」

 そこなのか、とツッコミを入れたくて仕方なかったが、あのアイアンクローをもう一度喰らうのは二度とごめん被りたかったので、それを呑み込んだ鈴木と杉浦だった。

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