第五蹴 願い
英語の授業中、日の光に微睡んでいた京は、くありと小さくはない欠伸をした。
(寝みぃ…)
もともと昨晩寝るのが少し遅くなったのも相まって、ただでさえ退屈な英語の授業と天気の良さにどうしても眠気を誘われてしまう。
(昨日は猫が何故か顔の上に乗っかって寝ちまったからな。なかなか寝付けなかった)
太々しい愛猫の顔を思い浮かべながらもう一つ欠伸をこぼす。
(早く終わんねぇかな)
心からの願いである。
と、ちらりと時計を見ると、残り五分だった。この五分がなかなか長いのだ。嫌なことほど時が流れるのは遅く感じる。不思議なことだ。
そういえばと、今朝美代にお使いを頼まれていたことを思い出す。
今日の放課後に、猫缶と醤油を買ってきて欲しいと小遣いを手渡されているのだ。余った小遣いは自由に使っていいと言ってくれたので、杉浦の家のケーキ屋にでも行ってみるか。あとで杉浦に、今日は部活はあるのか聞いてみなければ。
楽しみを見つけて、京はそっと微笑んだ。
退屈だった授業がようやく終わって、京はほっと息をつく。
「伊吹〜、お前今日部活ある?」
鈴木がのんびりと歩いて話しかけてきた。
「いや、今日はない」
緩く首を振る京にうなずいて、ちょうど隣にやってきた杉浦を親指で指さした。
「こいつも今日部活休みになったんだって。そして俺も休みだ。ってことで、放課後杉浦の家のケーキ屋になんか買いに行かね?」
何というタイミングだ。いっそ奇跡か。
瞳を若干輝かせて、京は大きくうなずいた。
「ちょうど俺もそれを言おうと思ってたんだ。お袋にお使い頼まれてるから、その後行ってもいいか」
「おー、いいぜ。客が来るのは嬉しいしな〜」
杉浦が笑ってうなずく隣で、鈴木がドヤ顔で胸を張った。
「さっすが俺。タイミングがいい男だぜ〜」
「よくわからないがすごいな」
至極真面目くさった顔で言う京に、杉浦が呆れたように眉を寄せた。
「そこは別に褒めなくていいぞ、伊吹」
「そうか。撤回する」
素直にうなずく京である。
「ひどい…。てか思ったんだけど、なんで伊吹はそんな杉浦に従順なんだ?」
「従順ってわけじゃねぇべ。伊吹はお前と違って素直なんだよ」
「俺だって素直です〜」
不貞腐れたように言って、彼は頭の後ろで手を組んだ。
「なんというか…杉浦の言葉には謎の説得力がある」
不思議そうに首をかしげる京に、鈴木は若干顔をしかめながらもうなずいた。
「んー、悔しいけどちょっとわかる気がする…」
「なんだそれ」
苦笑して、杉浦は腰に手をやった。
「よくわからんこと言ってないで、次の授業の準備しとけよ。移動だぞ」
言われて、京と鈴木は慌てて次の授業、生物の準備を始めるのだった。
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