②
ホームルームの間ずっと眉間に皺が寄らないように指でそこを押さえていたので、おかしな跡がついてしまった。
「………」
無言で男子トイレの鏡でその跡を見つめて、ため息をつく。
(一体、どうすりゃいいんだ)
ぺたぺたと足音を立てて、教室に戻る。
肩を落として戻ってきた京の顔を見て、鈴木と杉浦が肩を震わせた。それに、彼は眉間にシワを寄せる。
「笑うなよ」
「くくっ…わ、悪い…!」
「それよりもほら、また眉間に皺よってるぞ」
話を逸らされたことは不満だが、鈴木の言うことは事実だったので京は軽く深呼吸をする。
「うーん、にしてもうまくいかないなぁ」
ひとしきり笑ってから、杉浦が腕を組んで言う。
「それなー。あ、女子の意見も聞いてみれば?」
「…なるほど。一理ある」
一つうなずいて、楽しそうにおしゃべりをしていた亜衣と美鈴の元へ足を運ぶ。
「話してるところ悪い」
「ん?」
「はい?」
声をかけられて、二人は首をかしげて京を見上げた。
「今、俺の目つきを治す特訓をしているんだが…何かいい案はないだろうか」
ひどくまじめくさった顔で聞いてくる京に目を瞬かせて、二人は顔を見合わせる。
「お菓子をずっと食べ続けるとか?」
「伊東先輩に頼んで、お菓子の提供を頼むとか…ですかね」
何故二人ともお菓子を出す?
首をかしげる京である。
いつのまにか後ろに来ていて鈴木と杉浦が、納得したようにうなずいている。
「なるほどなー」
「やっぱ、女子は考えることが違うわな」
「ふふん、杉浦はともかく、鈴木よりは頭の出来、いいからね」
亜衣が自慢げに腰に手を当てる。鈴木が悔しそうに顔を歪ませた。
「こんにゃろう…腹立つけどなんも言い返せねぇ」
「す、鈴木くんは得意教科と苦手教科の差が激しいですよね…」
頑張ってフォローしようとする美鈴である。
「まぁ、それは置いといて。今の案はいいと思うぞ?」
「置いとかれるのは癪だけど。俺もいいと思う。伊吹、甘いもん食ってる時は表情柔らかいもんな」
それに、亜衣と美鈴もうんうんとうなずく。
「そうか…けど、常に菓子を食べ続けるってのは難しいな。授業もあるし」
京がこれまた眉間にシワを寄せて言う。鈴木が唸りをあげた。
「そこだよなぁ。うーん」
亜衣が指を立てて提案する。
「授業中以外の時間はそうするとかは?」
「それもあり。あとは」
杉浦がうなずいて、ニヤリと笑って鈴木に視線を投げる。
「楽しいことをたくさんする!」
「それできーまり!」
コツンと拳を突き合わせる鈴木と杉浦に、京はおかしそうに吹き出した。
「ほらな、笑ったじゃん」
「こうやっていつもくだらないことをして、ダチとワイワイやんのが一番目つきが良くなる治療法だ」
「ふふ、鈴木もたまにはいいこと言うじゃん」
「お前はさっきから誰目線なんだよ」
じとっと睨んでくる鈴木を無視して、亜衣が京を改めて見上げる。
「ね。そんな簡単に治らないかもだけど、色々やって眉間の皺なんてなくしちゃおうよ」
「…ああ」
自分の中での因縁とも言える、目つきの悪さ。それが、こんなにも簡単に解決してしまうなんて。
「お前らは魔法使いだな」
幾分か柔らかい表情で言われて、四人はおかしそうに吹き出した。
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