③
京、鈴木、杉浦の三人は、テレビ画面に映る文字を信じられないおもいで、口を開けて見つめていた。
表示されているのは『Win KOTETU』。つまり、ゲームで勝ったのは虎徹である。しかも、圧勝。ちなみに、格闘ゲームとマリカー、どちらも一位が虎徹。
「…お前」
京に睨まれて、彼は降参するように両手を挙げた。
「あ、兄貴…堪忍してください…」
「すげぇじゃねぇか」
予想していなかったその言葉に、虎徹は目を瞬かせる。
「へ」
「おぉ〜すげぇよ南條クン。ゲーム強いんだな」
杉浦が感心したように何度もうなずく。それに、彼は恥ずかしそうに俯いて頭に手をやる。
「照れるっす…」
その肩に腕を回して、鈴木がニヤニヤと笑った。
「おーおー、可愛いじゃんか中学生!」
「鈴木うざいな」
ぽそりと京がつぶやくと、鈴木が傷ついたような顔をした。
「え、伊吹ひどい」
「いいぞ、もっといえ」
杉浦が親指を立てるのに、京は無言でうなずく。
「…い、伊吹が…どんどん杉浦化していく」
信じられないというような反応をする鈴木を、虎徹が憐れむような目で見る。
「どんまいっす」
「おう…友よ」
謎の友情が芽生えたところで、美代がタイミングよくテーブルにお茶の準備をしてくれた。
皿の上には杉浦が持ってきてくれた彼の実家のくるみパウンドケーキとシュークリームがのっている。テーブルの真ん中に、電気ポットが置かれていた。
「コーヒーか紅茶、どっちがいい?」
紅茶の缶とコーヒー豆を両手に持って、首をかしげる美代に、四人は顔を見合わせた。
まろやかな生クリームとこくのあるカスタードクリームがたっぷりと入ったシュークリームを頬張りながら、京は恍惚とした表情を浮かべる。幸せだ。
「兄貴のその顔、ひさびさに見たっす〜」
にこにこと笑いながらコーヒーを飲んで、虎徹は満足げに息をつく。
「…そういや、なんで南條は伊吹のこと兄貴って呼んでるんだ?」
鈴木もまたコーヒーを飲みながら、首をかしげる。それに、京、杉浦、虎徹の三人はぎくりと肩を動かした。
「…えっと、兄貴にはよく遊んでもらってたんで!本当に兄ちゃんみたいだなーって思って」
あはははと乾いた笑みと共に納得できるようなできないような理由を話す虎徹に、他の二人はハラハラとそれを見守る。
「ほほぅ…」
鈴木がじっと虎徹の顔を見つめる。
(ば、バレたら兄貴にバラされる…!!)
ごくりと生唾を呑んで、その視線を見つめ返す。これは自分の生命の危機である。心してかからねば。
「…南條さ」
「うす」
「…モテるだろ」
「へ」
予想していなかったその言葉に、虎徹は間の抜けた声を出して肩の力を抜いた。
一方で、京と杉浦は心底安心したようにほっと肩を撫で下ろした。よかった。本当に。やっぱり鈴木は鈴木だった。
何気に失礼なことを考えて、二人は紅茶を飲む。
「も、モテないっすよ…」
気を取り直した様子の虎徹がぶんぶんと首を振る。
「ほんとかぁー?ま、ならいいけど」
フォークでくるみパウンドケーキを一口分切り取って、口に入れる。
「あれ、味変えた?」
首をかしげる鈴木に、杉浦がこくりとうなずく。
「砂糖の量変えたらしい」
「こっちのがうまいな」
「伝えとく〜」
「…うまい…」
もぐもぐとパウンドケーキを頬張る京に笑って、杉浦もそれを食べる。
「…鈴木さんと杉浦さん、いつからダチなんすか?」
「俺らは中学からだよ」
「まさか高校同じになるとは思ってなかったなー」
杉浦が答えて、鈴木がうんうんとうなずく。
「受験の時まで知らなくて、会場出会ってあーらびっくり」
おかしそうに笑う鈴木に、それまで幸せそうにケーキを頬張っていた京が紅茶を飲んでから口を開く。
「志望校とか、話してなかったのか」
「そうそう。なんか知らんけど、なんとなくお互い聞かなかったんだよな」
「なー。あれ、なんで聞かなかったんだろ」
杉浦が首をかしげて紅茶を飲んだ。
「ま、今となっちゃどうでもいいことだけど」
「今が楽しいからいいのだー」
呑気に言って、鈴木はシュークリームにかぶりつく。
「うまいっす!お父さん!!」
くるりと後ろでテレビを観ている崇に向かって、鈴木が言った。ぴくりと肩を動かして、彼はちらりと振り返って小さくうなずく。すっかり崇に懐いている。崇自身、まんざらでもなさそうだ。
さらに複雑な気持ちになって、京は無言で紅茶を飲んだ。
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