第三蹴 波乱の自宅訪問

 日曜日。鈴木と杉浦が、伊吹家に遊びにくる日である。

 京は待ち合わせ場所である咲高の校門の前で、そわそわと二人を待っていた。杉浦は一度来たことがあるので家場所を知っているが、鈴木はまだない。ならば一度高校に集合して、三人で行こうということになって今に至る。

 初めて友人を自分の家に呼ぶので、京はいささか緊張していた。鈴木がゲームを持ってくると言っていたので、それを三人でやるのも楽しみだ。

 興奮を落ち着かせようと、彼は一人息をつく。

「伊吹ー!」

 少し離れたところから名前を呼ばれてそちらを見ると、笑いながら手を振ってくる鈴木がいた。

 それに手を挙げて返す。

「はよ」

「おはよう。あ」

 京の後ろに目をやって、鈴木は手をあげる。

「杉浦もおはよー」

「おー、おはよ」

 それに返しながら、杉浦は歩いてくる。

 近くまで来て、京に紙袋を手渡した。

「うちのお菓子。くるみのパウンドケーキだ」

「サンキュ」

 小さく笑う京にうなずく。

「じゃあ、行くか」

 それにうなずいて、三人は歩き出した



「ただいま」

「「お邪魔します!」」 

 三人の声を聞きつけて美代が急いで玄関にやってくる。

「いらっしゃい!」

 にこにこと嬉しそうに笑う美代に、二人はぺこりと頭を下げた。

「今日はよろしくお願いします」

「あんま騒がしくしないようにします」

「あらあら。むしろ騒いでくれていいのよ〜。男の子はうるさいくらい元気なのが一番。京くんはすごい静かな子だから」

 おかしそうに笑う母に、京は若干不満そうに眉間にシワを寄せた。

「悪かったな」

「不貞腐れてやんの」

 ぷっとバカにしたように笑ってくる鈴木を軽くこづいて、彼は先程杉浦からもらったパウンドケーキの入った紙袋を美代に渡した。

「杉浦の家、ケーキ屋なんだ。これ、土産にもらった」

「まぁ、ありがとう。あとでお茶の時にみんなで食べましょうか。今日、お父さんがシュークリームを買ってきてくれたのよ」

 それに嬉しそうに黙って瞳を輝かせる京に笑って、美代は手招きをした。

「さぁさ、早く上がって」

 それにうなずいて、三人は中に入った。



 リビングに行くと、崇がソファーに座って新聞を読んでいた。

「お邪魔します!」

 鈴木が言って、杉浦がぺこりと頭を下げた。新聞を折りたたみ、崇は重々しくうなずいた。

 それに、瞳を輝かせて鈴木が京の耳元に口を寄せる。

「お前の父さんかっけぇな!」

 本人はこっそりと言ったつもりのようだが、わざわざ耳元で言わなくても聞こえるような声量で聞こえてしまっている。

 杉浦が笑いを堪え、崇がどう反応すべきか真剣に悩んで眉間にシワを寄せた。京が軽く笑う。

「…そうだな」

 そんな不思議な空気の中、鈴木は気づかずにうんうんとうなずくのだった。

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