③
むくりと起き上がって、ぼんやりとする意識を振り払うように京は緩く頭を振った。サラサラと髪が揺れる。
それを鬱陶しそうにかきあげて、彼は部屋を出て一階のリビングへ降りていった。
リビングには誰もいなかった。テーブルの上に美代の字で置き手紙が置いてある。
『おはよ〜京くん。起きたなら冷蔵庫にお昼の炒飯があるから、それ食べてね!お母さんは友達とお買い物に行ってきます♪あ、虎徹くんは埼玉に帰ったから安心してね』
と。
それに一つうなずいて、京は冷蔵庫を開けて炒飯を取り出し、電子レンジの中に入れる。温まるのを待ちながら、彼はぼーっと考えた。
(…これからどうすっか。ダチもいなくなったし、部活も当然入る気にはなれねぇ。放課後は暇になった。バイトでもするか?いや、いっそこの憂さ晴らしにまた喧嘩三昧もいいかもしんねぇなぁ)
ふふふと妙に楽しい気分になって笑い声を漏らす。滅多に使わない表情筋が軋む。
ピーピーと、電子レンジから無機質な機械音が鳴った。蓋を開けて、温まった炒飯を取り出して、いつも食事をするテーブルの上に置いて食べ始める。
「…美味い」
つぶやいて、京はその後も黙々と炒飯を食べ進めていった。
お昼休み。購買で買ったパンを食べながら、どことなく今朝から不機嫌な様子の杉浦を、鈴木がじとりと見つめていた。
その視線に、彼は大きなため息をつく。
「なんだよ、言いたいことがあんなら言えよ」
「お前なんでそんな今日不機嫌なの?伊吹がいなくて寂しいとか?」
半分当たっていて、当たっていない。
それに微妙な顔をして、もう一度杉浦はため息をつく。
「…昨日帰りに、いろいろあって伊吹に友達辞める宣言みたいなのされて」
「は」
しょんぼりと話し始める友人に、彼はぽろりとパンクズを口から落とす。構わずに杉浦は続けた。
「そんで、今日ちゃんと話つけよーって、意気込んでたのに、あいつ休みやがって…寂しいっていうよりも、肩透かしにあった気分」
「…な、なるほど?」
正直頭が混乱していてよくわかっていないが、とりあえずうなずいておく。
「…え?」
「ん?」
一拍置いて、ようやく状況…というより、杉浦が言っていた意味を理解して、顔をしかめる。
「つまり喧嘩?したってこと?」
「…んー、そうなるのかなぁ」
喧嘩というよりも、一方的に別れを告げられたというのが正しい気がする。
曖昧な返事をする杉浦に、鈴木は呆れたように息をついてパンを齧った。
「なんじゃそりゃ。ていうか、いろいろあってってなんだよ」
「そこは話していいのかわかんないから秘密で」
「うへぇ、一番気になるやつだ〜」
眉間にシワを寄せる友人に、杉浦はそっと笑った。
「まぁまぁ」
自販機で買ったパックのコーヒー牛乳を飲んで、彼は口を開く。
「あとでまっつんのところ行って、伊吹の家の住所聞いてくる。そんで、話つけにいく」
まっすぐ前を向く友人に、鈴木は笑ってうなずいた。
「それがいい。よくわかんないまま話せなくなるのなんて、嫌だもんな。ちなみにそれ、俺も行ったほうがいい?」
「いんや、いいや。必要になったら呼ぶ」
「りょーかい」
二人は笑い合って、拳を突き合わせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます