②
帰宅後。美代が虎徹の突然の訪問に驚きつつも嬉々として夕飯を作っている間、京は自室にこもってベットにうつ伏せになっていた。
(もう、何もかも終わりだ…せっかく喧嘩三昧だったあの生活からおさらばできるって思ってたのに…ダチもいなくなった。家庭科部への入部なんて無理だろうし、彼女なんて夢のまた夢だ)
これまでにないくらい落ち込んでいる京である。
そのまましばらく微動だにしないでいると、ノック音が響いた。それに、京は唸り声を返す。
「京くんご飯できたわよ…って、具合でも悪いの?」
電気もつけずに制服を着たままベットの上に沈んでいる息子に、美代は心配そうに眉を寄せた。
京はそれに返事をしなかった。そんな気力すらもなかったのだ。
「ご飯、食べれない?」
「……悪い」
一言だけ告げて、彼はそのままもそもそと布団の中に潜り込んでしまった。
「お腹空いたら、すぐに言ってね。明日まで具合が悪いようだったら学校も休んでいいわ。引っ越したばかりで、疲れが出たのかもしれないし」
優しく笑って、彼女はそっと部屋を出ていく。ドアが閉まる音を聞きながら、京は目を閉じた。
階段を降りてリビングに戻ってきた美代に、虎徹は首を傾げる。
「あれ、兄貴食わないんすか?」
「うーん…具合が悪いのかしらね」
曖昧にうなずく美代に、彼は目を丸くした。
「マジっすか!?お、俺ちょっと兄貴の様子見てくるっす!!」
「あ、いいのいいの。放っておくのがいちばんよ」
「…そっすか?まぁ、姐さんがいうなら」
虎徹は埼玉にいたころにも京に付き纏っていたので、よく家に遊びにきていた。美代や崇とはすでに仲良しだった。
「そんなことより、たくさん食べてね。虎徹くんは美味しそうに食べてくれるから私も作り甲斐があるわぁ」
にこにこと笑う美代に、虎徹は呑気に大きくうなずいた。
翌朝。やはり布団の中から出てこようとしない京に、美代は軽くため息をついた。
「京くん、今日は学校お休みでいいのね」
「…ああ…」
低い声で小さく、返事が返ってくる。それにうなずいて、美代は部屋を後にした。
登校中、京と会えると思っていた杉浦は、通学路どころか教室にすら姿を見せなかった京に首をかしげた。
(伊吹の奴、まだ来てないのか…?昨日のこと、ちゃんとしたいのに)
座席について、じっと教室の入り口を見つめる。京が登校してくるのを待った。だが、一向にその気配はない。チャイムが鳴るのと同時に、担任である松尾が教室に入ってきた。ホームルームが始まってしまった。
号令がかけられて、杉浦は無言で立ち上がり、礼をして座った。
「えーっと、今日の欠席者は伊吹一人だな。で、業務連絡だ。よく聞けよ〜」
さらりと告げられた事実に、杉浦は目を丸くしてがたりと立ち上がった。松尾とクラスメイトたちの資産が集まる。
「な、なんだ。どうした杉浦」
「…なんでもないっす。さーせん」
不機嫌そうに言って、彼は座る。松尾は珍しいこともあるものだなどと思って、そのまま話を再開した。
(あいつ、逃げやがったな…)
むっと眉間にシワを寄せて、杉浦は窓の外を睨んだ。
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