③
茶道部でのもてなしを終えて、二人は礼を言ってからその場を後にした。
次の見学場所への移動中しながら、鈴木が後頭部に手を組んだ。
「いやー、茶道部のお茶菓子美味かったな。抹茶は苦かったけど」
「ああ。面白かった」
ほんの少しだけ笑う京に、彼は満足げに微笑む。楽しんでいるのなら何よりだ。
「さぁー、まだまだあるからな!今日は文化部全制覇だ!!」
「おう」
声高々に宣言した鈴木に、京はうなずいた。
もうすっかり日が暮れた頃、校内とグラウンドに部活動終了の放送が流れた。
生徒玄関で上履きから靴に変えながら、鈴木が口を開いた。
「よっしゃ、無事に文化部制覇できたな〜。どうだった?」
気分良く笑いながら聞くので、彼は一つうなずいた。
「前の高校じゃ碌に部活見学なんざできなかった分、楽しめたと思う。付き合ってくれてサンキュ」
小さく笑う。鈴木は嬉しそうに笑った。
「どういたしまして。明日は俺部活あるから付き合えねぇけど、たぶん杉浦が付き合ってくれると思う。運動部も楽しめよ?」
「ああ」
明日が楽しみだ。そんなことを思いながら、薄暗い外を下校していく他の生徒たちに紛れて帰路に立つ。
「んじゃ、俺こっちだから。じゃあなー、伊吹!」
門を出て大きく手を振ってくる鈴木に小さく手を振り返した。
家に帰ると、美代が作る夕飯の匂いが玄関に漂ってきた。
「…ただいま」
(今日は唐揚げか)
京は基本的に美代の作るものは好きだが、中でもとりわけ肉料理が好物だった。彼女の作る肉料理はどれも肉汁がジューシーで、ガッツリしているので食べ応えもあり、味付けもバッチリなのだ。
心の中で花を咲かせていると、美代が玄関のドアの音を聞きつけたのかパタパタと足音を立てて顔を出した。
「おかえり京くん。遅かったのね〜。また喧嘩〜?」
のんびりと聞いてくる美代に、彼は緩く首を振る。
「違う。ダチに部活紹介してもらってたんだ」
ダチ、自分で言ったその言葉に、京はジーンと胸が熱くなるのを感じた。少し気恥ずかしい。
「お友達…あらあらまぁまぁ!!」
きらきらと瞳を輝かせて、彼女は興奮気味に持っていた箸をぶんぶんと振り回す。
「できたのね!?お友達!!」
「あ、あぁ…お袋、箸は振り回さないほうがいい」
危うく目に刺さりそうになったのを寄せながら京が言う。それに、美代が慌てて手を引っ込めた。
「ごめんね〜、つい嬉しくて。よかったわね!京くんずーっとお友達ほしいって言ってもんね〜」
それに、彼は照れ臭そうにしながらもうなずく。
「今夜はお祝いね!お母さんじゃんじゃん唐揚げ揚げちゃうわ〜!!」
張り切って腕まくりをしながら台所へ戻っていった美代に、京はこっそり苦笑した。
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