②
家庭科部を後にして、二人は茶道部へと移動した。
『茶道部』と書かれた教室の前で、鈴木がごくりと生唾を呑んだ。そのただならぬ様子に、京が首をかしげる。
「何かあるのか」
「…いや、ただうちのクラスに茶道部に入ってるやつがいるんだけど、そいつが前ここの部長を怒らせるとめちゃくちゃ怖いって言ってたの思い出して、つい身構えちまった」
なるほどと、彼は一つうなずく。
「俺が開ける。さっきはお前に全部やってもらっちまったからな」
ニヤリと笑う。これでも、本人は鈴木を安心させるように笑ったつもりだ。
「お、おう。じゃあ頼むわ」
若干その笑顔に顔を引き攣らせて、鈴木はそこを譲る。
京が、ドアを開けた。
目の前に広がっていたのは、畳の上に正座して静かにお茶を飲む女子生徒と、その前に正座している浴衣をきた男子生徒一名が無言で目を閉じているというものだった。
(…なぜ浴衣…!?)
鈴木が心の中で突っ込んだ。京は驚きに目を丸くして固まっている。
「結構なお手前でございました」
お茶を飲み終え、茶碗を回す。そして、それを浴衣の男子生徒にそっと返した。
「ありがとうございます」
受け取り、それを横に置く。
「…さて、そこの二人は何の用?」
男子生徒が鋭い視線を投げる。京はそれにはっとし、思わずすぐに動けるようにと気を張った。
(すげぇ敵意だ…こいつ、強い)
「えっと…こいつ、今日転校してきたんで、部活見学に来ました」
鈴木が少し怯みつつも、京を指差して言った。それに、男子生徒はじっと京を見つめる。負けじと見つめ返した。
「…ふーん。度胸はあるね」
目を細め、男子生徒はニヤリと笑った。どうやら品定めには合格したらしい。
「うっす」
少しだけ気を緩めて、京はうなずく。鈴木がそんな二人のやりとりに頰を引き攣らせた。
(いや、何今の…この二人がおかしいんだよね?俺、普通だよね??)
困惑している鈴木をよそに、男子生徒は立ち上がり、座布団を二枚敷いた。
「まぁ、上がると良い。簡単なもてなしくらいはしてやれるよ」
「あざす」
小さく言って、京は中に入っていく。鈴村もまた、迷いながらも中へと足を踏み入れた。
雰囲気的にあぐらをかくのは躊躇われて、二人とも正座でちょこんと座る。
「見学だったよね?まずは自己紹介。僕は茶道部の部長、二年の
紹介されて、那月はにっこりと笑って軽く頭を下げる。先ほどお茶を飲んでいた女子生徒だ。
「…一年二組の鈴木俊哉です。サッカー部に入ってます。今日はこいつの付き添いっす」
「伊吹京っす」
ぺこりと二人で頭を下げる。
「伊吹はたぶん、うちの部活に興味があったから見学しに来たんだろうけど、なんで興味を持ったのかな」
それに、鈴木がぎくりと体を強張らせる。もしも今この場でこの人に本当のこと、つまりはお菓子が食べれるかもしれないから、と言ってしまったら、激怒して乱闘になってしまうかもしれない。
(うまいこと誤魔化せよ、伊吹…!)
「甘いもんが食えるかもと思って、来ました」
そんな鈴木の心の内など知らずに、京は真顔で言いのけた。鈴木が愕然と口を開ける。ひゃーとでも言いたげな顔をした。
「…なるほど」
低い声で悠がつぶやいた。ごくりと二人は生唾を呑み込む。
「いいじゃん、素直で」
那月がにこにこと笑いながら言った。悠が睨みつける。
「那月は黙ってて」
「悠くん顔怖いしあんまりしゃべらないからこの子達怖がっちゃってるよ。かわいそうでしょ」
それにぐっと唇を噛んで言葉を詰まらせる。目の前でくり広げられるそのやりとりに、二人は目を瞬かせる。
「あの…」
鈴木が声をかける。那月がにっこりと笑った。
「ごめんね〜。この人ちょっと目つきが悪くて真面目すぎるだけなの。気にしないで。気楽にしてていいよ。足も崩して大丈夫!」
親指を立てて言うので、二人はそっと足を崩した。実を言うとそろそろ限界に近かったので、助かった。
「ほら、いつまでも固まってないでお抹茶立てて!私はお茶菓子用意するから。せっかく見学来てくれたんだから、おもてなしおもてなし!」
「…だから、僕も最初からそのつもりで…あぁっ、もう!」
新藤が立ち上がってお茶の用意を始める。なんとなく、この二人の関係性が見えてきた。
京は顔は仏頂面のまま那月を見つめる。
(この女も、相当やるな…)
まさかそんなことを思われているとは考えもせず、那月は視線に首をかしげながらもお茶菓子の用意を始めるのだった。
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