②
体育館に移動して、京、杉浦、鈴木の三人はすみっこの方で壁に寄りかかって話していた。
「伊吹は運動得意か?」
杉浦が聞くと、京はうなずく。先程も鈴木に書かれたことだ。
体を動かすのは、普通に好きだ。前の学校では、クラスメイトたちが怖がるのであまり授業に参加していなかったため、久々の体育への参加である。
「それじゃ、部活は運動部に入るのか?」
それに、京は一瞬息を止める。
部活。それは京が心焦がれる学校活動の一つだった。まさに京の目指す青春の1ページに数えられるものである。
「…いや、まだ決めてない。ここはなんの部活があるんだ?」
「あ、そっか。そもそも何部があるのか知らないのか。今日の放課後、案内しようか?」
鈴木が自分を指差しながら笑う。それに、京はうなずいた。
「頼む」
「任せとけ」
「俺は部活があるから手伝えないけど、うちの部活に来れば色々教えてやるよ」
杉浦が少し残念そうに言うので、京は少し首をかしげた。
「杉浦は何部に入ってるんだ?」
「俺は合気道」
「合気道…鈴木は?」
「俺はサッカー」
(っぽいな)
内心で納得して、京は小さくうなずいた。今度は二人が首かしげる。
「伊吹は前の学校では何部に入ってたんだ?」
それに、彼は内心で少し焦った。放課後は毎日喧嘩を挑んでくる輩の相手で、部活どころではなかったのだ。そもそも入りたくても目つきが悪いのと噂のせいで、どの部活も入部するなオーラが漂っていて、とてもではないが入る気にはなれなかった。
本当のことを話すわけにはいかないので、京は緩く首を振った。
「部活はやってなかった。事情があってな。ここではやるつもりだ」
「へぇぇ、伊吹の筋肉ならやっぱり運動部がいいよなぁ。まぁ、文化部も結構色々あるし、ゆっくり決めればいいべ」
鈴木がのんびりと言うので、京はほっと息をつきながらうなずいた。
集合の笛が鳴る。教師の元へ生徒たちが群がっていく。
「俺たちもいくか」
杉浦の言葉に、二人はうなずいた。
軽いルール説明の後に、試合のチームが振り分けられる。結果として、三人のうち杉浦と京が同じチームで、鈴木だけが一人違うチームになってしまった。だが、鈴木は散歩に行くときの犬のように瞳を輝かせて京を見る。
「すげぇ、ほんとに別のチームになった」
「だな。じゃあ勝負、するか」
「おー」
拳を突き出す鈴木に、京は不思議そうに首を傾げる。
「あれ、知らない?」
なにしろ、今まで友達0人だったのだ。こくりとうなずく京に、隣にいた杉浦がその腕を持ち上げて拳をつくらせる。
そしてそれを鈴木の拳に突き合わせた。コツンと軽い音が鳴る。
「覚えとけよ〜結構使うから」
笑う鈴木と杉浦に、京は小さく笑ってうなずいた。
それぞれ試合開始前に並んで、挨拶をして適当にバラける。笛の合図とともに、ジャンプボールが行われた。
バスケボールが鈴木の手に渡る。京が彼の前に立ちはだかる。
鈴木が京の横をすり抜けようとしたが防がれた。それからしばらくの間ずっと交戦が続いた。
やがて京が鈴木のボールを奪った。おぉ、と小さく周りがどよめく。
そのまま少し移動して、真ん中まで行くと京はそのまま綺麗な弧を描いてボールをゴールへとシュートする。
得点板に3点と表示される。見事なスリーポイントシュートが、決まった。
「よし」
グッと拳を握って、京は呟く。
一拍置いて、周りがどっと騒がしくなった。京はびくりと肩を震わせる。
「お前すげぇなぁ!」
「あんな綺麗なの初めてみたぜ」
わーわーと自分を囲むクラスメイトたちに、京は戸惑いしかなかった。
「次は俺がボール奪ってやる…」
ぐぬぬと悔しそうに唸る鈴木の肩を、杉浦がぽんぽんと叩いてやった。
「覚悟してろよ、伊吹!」
「あ、ああ」
戸惑いは消えなかったが、それとは別に楽しいと言う気持ちが、京の胸を満たした。
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