第5話

彼を見ていると、心が踊る。


ひーちゃんを揶揄う時のつまらなそう顔も、私と話す時の仏頂面も相変わらずであったが、徐々に心を開いてくれている実感が幼心にも咲きつつあった、そんな頃。


彼が珍しく私に声をかけてきた。

授業終わり、帰り支度の最中だった。


「学校、一緒なの?アイツと」

アイツ、とは恐らくひーちゃんのことだろう。


「んーん?違うよ。なんで?」

何気ない風を装いながらも、私の頭の中はパンク寸前だった。

まさか、こいつの方から話しかけてくるなんて。

激しくなる鼓動を抑えながらも、私は彼の顔を正面から直視する。

真黒な瞳が、左右に少し揺れた。


「いや……なんかめっちゃ仲良いから。」

あわてて目を逸らした彼の耳は、やはり赤い。


安直で世間知らずな私は、この程度のことで直ぐに舞い上がる。

それは彼が、私を女子として意識している可能性すら感じてしまう程だった。


「新しい世界」のコイツは、口は悪いけどちゃんと話をしてくれるし、ちょっとだけほかの男子よりも大人だし、顔だってカッコイイかもだし。


悪くないかも、などと下手な妄想に花を咲かせながらも彼の横顔を盗み見ようと視線を泳がせたその先で、思わず視線が交差した。


息が詰まる感覚。全身の血液が首から上に集中した様な、そんな有り得ない感覚。


数秒見つめ合った後、慌てて言葉を探す私に彼は笑って言い放った。


「メガネ邪魔そー!」



胸の高鳴りは、明らかな感情を浸隠すには余りにも大きすぎる。


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