第4話
「おもしろい?これ」
空の弁当箱を机に散らかしたまま、クロスワードパズルを解いている彼の机を半ば強引に覗くと、彼は心底嫌そうな顔をした。
「うるさい、あっち行って」
もしかしたら彼は女が嫌いなのかもしれない。幼心にそんな気遣いを抱きながらも、私は彼にしつこく話しかけた。
「何でそんなこと言うの。いいじゃん見せてくれたって」
ひーちゃんを好きにならない男の子なんて居るはず無いのに。そんな馬鹿げた私の狂信ぶりが、彼のキツイ言葉を跳ね返すだけの傲慢さとなって現れた。子どもの好奇心というものは、底を尽きないものである。
「……ハマってるの。クロスワード」
ぶっきらぼうながら、彼は低い声で私にそう返事をした。
途端に、可笑しくなる。
答えてくれたことが嬉しくて、つっけんどんな口調から出た『クロスワード』なんて言葉がやけに浮いて思えて、ミスマッチで、私は大きな声を出して笑った。
「は?何」
呆れた声とは裏腹に、俯いた彼の耳は真っ赤に染まっていた。
違うじゃん。胸の中で反駁する。
違うじゃん。こいつは女の子が嫌いなわけでも、ひーちゃんに興味がない訳でもない。
ただ、ちょっとだけ他の男子よりもオトナなのだ。 だから、女の子と話をしたり揶揄ったりすることが"恥ずかしい"ものだと思っているのだ。
気持ちの高揚をハッキリと自覚しながら、私はクロスワードに指を伸ばす。
「ここは "う・ま・ご・や" じゃない?ほら!やっぱり!」
「うるさいって。勝手にやるなよ」
彼もまた、「新しい世界」のうちの一人となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます