第4話

「おもしろい?これ」


空の弁当箱を机に散らかしたまま、クロスワードパズルを解いている彼の机を半ば強引に覗くと、彼は心底嫌そうな顔をした。


「うるさい、あっち行って」


もしかしたら彼は女が嫌いなのかもしれない。幼心にそんな気遣いを抱きながらも、私は彼にしつこく話しかけた。

「何でそんなこと言うの。いいじゃん見せてくれたって」

ひーちゃんを好きにならない男の子なんて居るはず無いのに。そんな馬鹿げた私の狂信ぶりが、彼のキツイ言葉を跳ね返すだけの傲慢さとなって現れた。子どもの好奇心というものは、底を尽きないものである。


「……ハマってるの。クロスワード」


ぶっきらぼうながら、彼は低い声で私にそう返事をした。


途端に、可笑しくなる。

答えてくれたことが嬉しくて、つっけんどんな口調から出た『クロスワード』なんて言葉がやけに浮いて思えて、ミスマッチで、私は大きな声を出して笑った。


「は?何」


呆れた声とは裏腹に、俯いた彼の耳は真っ赤に染まっていた。


違うじゃん。胸の中で反駁する。


違うじゃん。こいつは女の子が嫌いなわけでも、ひーちゃんに興味がない訳でもない。

ただ、ちょっとだけ他の男子よりもオトナなのだ。 だから、女の子と話をしたり揶揄ったりすることが"恥ずかしい"ものだと思っているのだ。


気持ちの高揚をハッキリと自覚しながら、私はクロスワードに指を伸ばす。


「ここは "う・ま・ご・や" じゃない?ほら!やっぱり!」


「うるさいって。勝手にやるなよ」



彼もまた、「新しい世界」のうちの一人となった。

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