第2話
彼女は自らを「ひーちゃん」と呼ぶ。
甘えた声で「ひーちゃんね?」と話しかけられると、私はいつも、何も言えなくなった。
彼女との距離がつまる度、私は自身の中の何かを生贄として差し出しているような息苦しさに苛まれた。
それでも私が彼女の傍を離れなかったのは、彼女がしばしば口にする"クラスメイトの男の子"が、あまりにも魅力的で、未知の世界の住民だったからである。
「ひーちゃんにはね、仲のいい男の子が3人いるの。」
彼女が私に差し出したガラケーのディスプレイには、彼女と、彼女を囲むように写る顔立ちの整った3人の少年の写真が映し出されていた。
「この子がカッチャンで、この子がハイジ。それで、コイツがレンタロウ」
私が素直に頷くと、彼女は眉間に皺を寄せて笑って、言った。
「カッチャンはね、私のこといつも助けてくれるんだ。この間も友達の女の子に、図工で描いた絵を破られたんだけど。こう…その、私の絵を破った子に」
私の知っている男の子はいつも乱暴で、平気で人を蔑む言葉を投げるような、そんな存在だった。だからこそ、惹かれた。
彼女の話す「未知の世界」をもっと知りたいと思った。
王子様のようなカッチャンに憧れ、焦がれ、同時に目の前にいる華奢で「儚い」少女に強く嫉妬した。
「カッチャンは、ひーちゃんのことが好きなんだね」
私がそう言うと、彼女は決まって困惑した様に笑う。その姿さえ魅力的で、胸の中に渦巻く嫉妬心以上に、自分自身がこの可愛い少女の友人であることを誇らしく思う気持ちでいっぱいになった。
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