彼女

黄吉

第1話

灰色、鼠色、グレー、薄墨色……


どれも同じ色なのに、こうして羅列した単語を眺めて見ると、それぞれが全くの別物のように思えてくるのだから言葉は不思議だ。


「グレー……かな」


彼女の目を見て、私はそう応える。

「綺麗な色。ちょっと普通の人より、薄いかも」


小学4年生の、春だった。




あの頃は何もかもが新鮮だった。

いつもピカピカに磨かれた黒板も、白い壁も、薄汚れた紅色の絨毯でさえ、私の目にはキラキラと輝いて見えていて、これからの人生に対する期待や情熱だって、確かにそこにあった。不可能なことなんて何も無いと思える程に、私はきっと可能性に満ちていた。


そんな私の前に突然現れた彼女は、今思い返すと誰よりも「儚さ」に満ちた少女だった様に思う。


「女の子、2人しかいないよね」


華奢な身体に似つかわしい、か細く高い声。それでも、私の耳に心地よく響いたのは"友達ができるかも"なんていう的外れな期待を抱いていた幼さの結晶のせいだったのかもしれない。

ヘラヘラと頷く私に、彼女はくしゃりと眉を顰めて笑って見せた。

独特な笑い方をする子だな、と思った。

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