第13話 再会
日用品からコアな商品まで全てが揃う商業区の中心には国鳥であるアイルの像を擁した噴水がある。名前はアイル広場。高速鉄道や地下鉄道などの主要駅へのアクセスが良いために待ち合わせ場所として重宝されている。
機構刀のケースを背負ってバスを降りたタツキはきょろきょろと見回す。予想以上に人の目が多くて落ち着かなかった。メンテナンスならば機構武器の携帯は許可されるが、もし機構刀が憲兵に中身がバレると対応が厄介だ。出来るだけ慎重な行動が要求される。
長らく来ない間に街の雰囲気が変わったように感じた。おそらく多くの人々が見覚えのない携帯端末を利用しているからだろう。
「これ、ライダスの端末だよな。安くてホロ機能も付いてる優れものって友達がいってたぞ」
「そう、この値段でホロ再生が出来るのは凄いぞ。俺の推しキャラもこの通りだ!」
タツキの近くで立ち話していた男性の端末上では、5cmほどのピンク髪のツインテールキャラのホログラムが踊っていた。アニメ関連に疎いタツキでも、深夜帯でアニメが放送されている”少女はスライムバスター”という作品であると気づく。
全てはこの作品を愛してやまないリサのせいである。ちなみにメディカルセンタへの往路で車内に流れていた曲もこのアニメの劇中歌らしい。
ライダス製端末のホログラムが流行したのは、これまでホログラム端末の販売が禁止されていたからだ。
機械運用法にホログラムを禁じる条項が載っている。
内容は大型機械の国内での運用を厳しく制限するもので、実はホログラムを対象とした条項ではない。ただ”機械類”の説明に(無人兵器、ホログラムなど)と記載されていたため法解釈の問題でホログラム端末は全く販売できなくなったのだ。
ライダスとの貿易交渉で法改定され、ホログラムという表記を削除するに至ったため輸入したホログラム端末がお祭り騒ぎの人気製品になっているらしい。
「いらっしゃいませー。ライダスから仕入れたガモン美味しいですよぉ!?」
アイル広場前の焼き鳥専門店ではガモンと名付けられた肉の照り焼きが販売されていた。店の前にはこんがりと焼けたガモンの串焼きを求めて6人が列をなしている。
最後尾に並んでいた少女に視線をやったタツキは顔を強張らせた。
程よく膨らんだ頬と整った輪郭が横髪から垣間見える 。平均よりも少し高い身長、そして背筋が伸びた凛とした立ち居。
髪型こそポニーテールに纏めているが見間違えようがない。間違いなくヒュージゴブリンを倒した女子学生と同一人物だった。
機構刀ケースを握りしめたタツキは手近な樹木へ身を隠そうと動いた瞬間、彼女と視線が交錯する。
「っ…………」
列に並んでいた少女は持っていたバッグを両手で強く抱きしめて何かを呟く。まるで誰かと話しているような仕草だ。2秒ほど唇を動かした後に、強く頷いてタツキへ向き直った。
逃げようかと思ったタツキだが、彼女がヒュージゴブリンから助けてくれた恩人であることも事実。どうしたものかと逡巡していると、
「あ、あの、昨日お会いしましたよね!」
存在をアピールするように右手を高く掲げて小走りにやってきた。
機構刀ケースを半開きにして身構えたタツキだが、彼女の雰囲気が意外と普通だったため呆気にとられる。
「あ、ああ。会ったね」
少女は一足一刀以上の間合いを取った位置で止まった。警戒するタツキを鑑みての対応であろう。
「昨日は突然その……なんかキスとかしちゃって、ごめんなさい!」
少女は右手で首元を擦りながらバツが悪そうに視線を右往左往させる。強張った頬はなぜか赤く色づいており、目はしきりに瞬きを繰り返していた。
「ま、まあ別に気にしてないよ。俺もヒュージゴブリンから助けてもらったし」
「それはその……えっと」
少女は煮え切らない様子で困ったようにモジモジと身体を揺らす。
先ほどの血濡れた制服から一転、白いひだ付きワンピースを身に纏ったカナリアは控えめにいって凛々しくて可憐である。現に、広場を行き交う男衆の数人は彼女に一瞥を投げている。
「原因は分からないが、ルフロ湖の実験用モンスターたちが逃げ出したんだろう。憲兵にいろいろと事情聴取されるかもしれないけど、解明されるまでの辛抱だ」
「はい……そうですね。頑張ります。えっと……」
「俺はタツキ・ランバート。よろしくねカナリアさん。ところで商業区にはあの照り焼きを買いに来たの?」
すこし早口で言い放ってガモンの販売店を指さす。人気店なのか未だに客が絶えずに列をなしていた。
「あ……えと、懐かしい味っていうんですか。昔の子供のころによく食べさせて貰ってたのが、あの食べ物だったと思います」
「よく覚えてないの?」
「はい。小さいときの記憶だからかもしれません。あの……タツキさんはこれから予定とかあるんですか」
どう答えたものか。良い案が思いつかないため真実を答える。
「これから機構刀の手入れをお願いしに武器屋へ行くつもりだよ」
「あ、私も武器屋に行こうと思ってました。い、一緒にいきませんか?」
カナリアはパッと華開くように表情を輝かせた。両手を胸に当てて身を乗り出す子犬のような仕草。人付き合いの薄いタツキが見た限りでは嘘には思えない。
「えっと……」
「あ、いや、ダメだったら無理にとはいいません」
「無理ではないけど」
「ではお供します!」
かくして口下手な二人は商業区を南下する方向に舵を切った。ちょうどアルフロイラ18区へ繋がる大通りを、妙な間合いを取りながら歩いていく。
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