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 記憶のフラッシュバック――目が慣れて、その時、唐突に悟った。これが例のあれか、と。

(危ないのだろうか?)

 本能が悲鳴をあげている。

 洞を、轟音がつんざいた。汚水の波を引っかぶり、彼は下水の中を奥へ奥へと這いずり進む。〝晴眼〟は、約束を護ってくれるのだろうか? まもるさんは辿り着けたのだろうか? 主上しゅじょうを倒すことができたのだろうか? 作戦は失敗していて、生き残っているのは自分だけなのではないか? 〝晴眼〟は、本当に約束を護ってくれるのだろうか?

 恐ろしい妄想が、彼の思考を塗りつぶしていく。

(――何だ?)

 がちがち、という音が響きだした。

(ああ――)

 何のことはない。歯の根が噛みあっていないのだ。笑えてきた。あんな約束をしなければよかった。自分はどうしようもない臆病者なのに。

(――〝晴眼〟!)

 溢れだしそうな感情を精神制御マインドセットで押し殺し、彼は下水を奥へ奥へと這いずっていく。

 彼の後方で閃光が弾け、轟音と怒号が迫ってきた。

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