3
今から一時間前のことだ。〝晴眼〟が行ってしまった。気配を感じて十児は振り向いた。
「――出来の悪い弟を持つと、気苦労が絶えなくて困ります」
闇に浮かぶ白い顔が、いびつに笑った。人の神経を逆なでするのに充分な嫌味。その言い回しを十児はよく知っていた。
「
「ふふふふふ、そぉーです、
下水道の反響で甲高い声が奇妙にねじれ、歪む。見知った相手であろうとも必ず名乗りをあげるのが、この男の特徴だ。白髪をオールバックになでつけた白い顔が、満足したようにうなずく。
「あんたが、でてきたのか……」
こちらのうめきを無視して、六部は続けた。
「あなたの存在を、
「――――。まさか、戻って来いと?」
「戻る気はないと?」
「当たり前だ!」
「ほう、変わりましたなぁ。以前は、そのようなことなど一言も口にできない、意志薄弱の臆病者であったものを。変わりましたなぁ、そう――」
一拍置き、
「裏切り者に」
「……あんたに言ってもわからないよ。だから僕は何も言わない」
「なるほど確かに。それが井乃原まもる嬢の考えならば、
六部がいびつに笑った。笑い声は聞こえない。
「やはりあの時――五年と半年前のあの時に、あなたをきちんと
六部がいびつに笑った。耳をふさぎたくなるような笑い声だった。
「これで存分にあなたを処理できる――」
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