scene.18

《バンク.cut》



収録合間、少しの待ち時間。

皆にバレバレのヤキモチを僕に向けるグク君。

彼と話をする為に僕から近づいた。


こんなに激しいヤキモチを焼くなんて

聞くまでもないんだけど…



「…グク君は凄く分かりやすいね?

ジーンの事好きでしょ?」


「分かりやすくていいんです。

隠すつもりないんで」


「男らしいね?若いのに」


つい笑ってしまった。

僕の事をライバルとして見ている。

まぁ実際ジーンはカッコイイしカワイイから

恋愛対象として見れなくはないけど、

ジーンは僕を、男を、

そういう対象として見ないはず。


ふたりで恋愛する役をして、

それからずっと近くにいても、

全くそういう雰囲気にならなかった。



僕の笑いに更に怒った様子のグク君。


ジーンは少し離れた所で、

僕達が話しているから少し嬉しいくらいな顔して

手を振ってきたから僕も手を振った。


「あ、けどジーンは分かりづらいよ?

あんまり顔に出さないし、

仲良くなっても男同士は男同士、

相手役だろうと俳優仲間、

としてしか思ってないはずだから」


「…ですよね。けどいいんです。今は」


「…今は、か」


親友として、ジーンが愛されるのは嬉しくもある。

それが面倒な奴や変な奴なら問題外だけれど。


「まぁ手ごわいだろうけど、頑張って」


「バンクさんは…恋敵ですか?」


「さぁ?ヒミツ〜」



恋敵か…否か……

僕はジーンの友達だけれど、

グク君の協力をするつもりはないし

ジーンがもし僕を好きになったりするなら

そういう関係も…あり得る。


何よりグク君の反応が可愛くて…'ヒミツ'に。



グク君の怒った顔を見てはまた笑いを堪えつつ、

僕は自分の場所へ戻った。







《Gkook.cut》



「ハァ…」


収録の途中、少し会話したバンクさんからは

親友や歳上の余裕を感じた。


「どうしたの?疲れた?

あ、腹筋…出来るかな、僕達で見本頼まれて

OKしちゃった…バンクに頼んで来ようか…」


「それって鼻キスのやつですよね。

なんでバンクさんに頼むんですか」


「え?グク君疲れてるし…

バンク達のドラマ2人で…」


「ぁ、彼等は彼等でって事ですか」


ジーンさんが僕を心配して言ってくれた。

しかもジーンさんとバンクさんが

鼻キスをするのかと思ったのは僕の早とちりで…

それはそれで良かったと思ったけれど…


「…まぁ、今回は…」


「…以前、バンクさんとやった事あります?」


「あるよ?」


「……見本でもなんでもしますよ。

腹筋なんて余裕ですし、

鼻キスだけじゃなくて、唇にも…」


「いや、唇にはやめてね⁈」


「……」


返事をしないタイミングで

待ち時間が終わり、再び収録が始まった。

少し小さな声で話してくるジーンさん。


「…疲れたね」


「だから疲れてませんてば」


「いや、体力的にじゃなくて、

なんか気を使ったり…」


「バンクさんがいるからですか」


「?バンクには気を使わないから疲れないけど?」


「……」


「グク君は、キャラ設定ぶれないね」


…また、僕の気持ちが顔に出ているはず。

けど、これを、ジーンさんはどんなふうに

自分がただ好かれてるとは思わずに

思考が逸れてしまうのか…


「キャラ設定?」


「うん、'僕の事が大好き!'っていう設定」


設定とか。なんだそれ……


「…ジーンさんは、

顔赤くして誤魔化すの上手ですよね。

可愛くなるし流石…」


「え、それって誤魔化せてないし…

グク君とは全然距離の取り方

上手くいかないんだけど…

ホント顔赤くなるのとか恥ずかしい…」


「では2人こちらへ!」


司会者に呼ばれ、皆の視線を一斉に浴びる。

会話は閉ざされて、

司会者のもとへ向かうのだけれど…


少し怒ったようなジーンさんは唇を尖らせ

1人で先に進み、その背中を僕は追いかけた。



ジーンさんは、そうやって自分の喜怒哀楽を

伝えるのが上手で、可愛くて…


自分の気持ちは見せずに誤魔化しているはず。








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