scene.16

《jiin.cut》



夜も深まった頃、

グク君からの電話を待っていた。


毎日のように電話していたけど、

最近は次の日の仕事など

お互い気を使って電話しなかったらしい。

…話す内容など無くなっても

グク君との会話は楽しいのに。


今日は電話の約束もしたし、

僕からかけても、いいよな…


'かけて来てくれたら、凄く嬉しいですけど'

グク君の言葉にも後押しされ、番号を押した。



「もしもしっ」


「ぁ、まだ電話早かった?」


「いえ、ちょうど今かけようとした所でした」


「そう?良かった」


「…もう寝ます?疲れてるのにいつもすみません」


「いや疲れてるのはお互いっていうか、

グク君の方が疲れてるみたいだったけど…」


「そんな事ないですよ?」


「そう?何回も溜息ついて…」


疲れてるのはお互い様だし、

撮影時間はグク君の方が長いかも知れない。

その上、役でドラムを演奏するから

練習をコツコツやってるのも知っているし、

まだまだ身体を鍛えてるのも知ってる。


今日の撮影が終わってから

何度もグク君の溜め息を聞いた。



「…はぁ…」


「ほら!なんか疲れてる!

グク君頑張り過ぎてるから、

ちゃんと休まないと。心も身体も!」


「あーまぁ…そうなんですけど…

ジーンさんはどうやって疲れとってます?」


「え?僕は…食べたり寝たりゲームしたり…

いろいろ癒されたりして…

グク君の癒しは?」


「……また'グク君好き!'って言ってくれたら…」


「ぇ?」


「ってくれたら…

役を演じるのに自信と元気が持てます!」


「えー?…」


…今日、僕が言った言葉。

確かにグク君の役からしたら…モチベーションが

上がったりするのかもな。


この言葉が少しでも癒しになれば。



「…グク君好き!」


「ありがとうございます」


即、お礼を言われる。

なんだか、僕の言葉、軽い気がするけど…


「んー?グク君は自信を持ってよ?

凄くカッコ良いんだから」


「ありがとうございます。

自信が持てたから快眠出来ます」


「ほんとに?」


「はい、じゃあおやすみなさい」


「え?もう?…あ!や、ごめ、おやすみ」


つい、まだ電話していたい気持ちが

口に出てしまった。直ぐに否定したけど…


「え?あ、まだ…」


「や、早く寝ないとなのにグク君…」


「僕はずっと話してたいです」


「僕も…そう思っちゃったんだけど…」


「…ジーンさん、好きです…あ、」


「フッ…ありがと、僕も快眠だ」



演じてる役の気持ちを言われると、

役になりきってるだけだけど……凄く嬉しいな。







《Gkook.cut》



ジーンさんとの電話を終わらせ、

癒されたような…興奮気味なような…


ベットに寝転び、今日貰った雑誌を広げた。

ドラマの宣伝を兼ねて、

ジーンさんが受けたインタビューのページ。


"Qボーイズラブ、男同士の恋愛をどう思う?

--A好きなった人が同性で、

辛い想いをしてる方もいるかも知れないけれど、

どんな恋愛でも、恋愛は素敵ですよね。

Qジーンさん自身の恋愛は?

--A男性でも女性でも、素敵な人は素敵です。"



ジーンさんは、

どんな素敵な人と、どんな素敵な恋愛を?



あの笑顔や、コロコロ変わる表情や、照れた顔…

彼の全てを見てきた人、これから見られる人、

全てに嫉妬してる。



すぐ思い浮かぶのは前回相手役のバンクさん。


彼がどんな素敵な人だろうと、

会いたくないのに。





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