scene.7
《Gkook.cut》
シナリオ通りに演技するしかないし、
実際、役の生い立ちや過去なんて
どうする事も出来ない。
ジーンさんが演じる役を、傷付ける演技。
僕とは無関係なトラウマが原因ではあるけれど
僕がそのトラウマを思い出させてしまう演技で
自分の胸を斬り付けているみたいだった。
目の前で泣き崩れられたら胸が苦しい。
演技ではあるけれど
ジーンさんを優しく抱きしめる事で
胸の痛みを紛らわせていた。
ジーンさんの迫真の演技が無事に終わった。
「お疲れ様ーこれで今日は終了ね」
「…お疲れ様でした」
監督へジーンさんが涙を拭きながら返事をした。
本番が終わり、やっとこれから…
僕はジーンさんをシナリオ関係無しで
慰める約束を果たすんだ…
「お疲れ様でした!」
頭を下げながらスタッフ達に何度か挨拶をして、
ジーンさんへと視線を戻す。
それなのにジーンさんの姿が見つからない。
部屋から飛び出してジーンさんを探した。
帰ってはいないはずなのになかなか見つからない。
駆け回って探し、
トイレの鏡の前で佇むジーンさんを
やっと見つけて…そのまま抱きついた。
「っ…慰める約束っ」
「グク君……けど、僕こんな顔で…」
息を切らせたまま、どうにか出た言葉。
その約束を否定するジーンさんを
更に強く抱きしめる。
「僕の慰めは必要ないんですかっ」
「ぃゃ…そんな事は…
なんか…本番で慰めて貰えて…助かったよ…
グク君、苦しいよ」
「…泣かせてごめんなさい」
「ぇっと…シナリオだし、ね?」
「どうしよう…まだジーンさん泣くシーンある…」
「ぅん…けど、今回ほどじゃないし…」
「けど、泣くシーンじゃないですか…」
「…なんかグク君の方が辛そう
ほんと役に入り込み過ぎ…」
ジーンさんの表情が見たくて
抱きしめている腕の力少しほどき、
間近にある瞳を覗いた。
優しく微笑むジーンさんは
泣きはらした目で赤くて…
苦笑いでも可愛くて……
どこまで胸って痛くなるんだろう。
《Jiin.cut》
泣き腫らした重い瞼のままグク君を見つめる。
心配そうに見つめ返してくる視線は
ただただ優しい。
こんなに必死になって慰めてくれる彼は
どこまで優しいんだろ。
役を演じながら、とても愛されてる自分の役を
羨ましく思ってしまう程。
さっき、グク君と見つめ合って…
本番、何度もキスをした。
泣きはらした顔をどうにかしよう、
これ以上グク君に迷惑かけないようにと
ひとりでトイレに駆け込んだのに
またグク君に救われてる。
またさっきの続きのように、
演技のように、
…ゆっくり唇が重ねられた。
「……なんの練習…?」
さすがにこんなキス、グク君の優しさ、
勘違いしそうになる。
「これからも慰める練習です…」
「チョっ…と…気持ちまで持ってかれそうで…
今、練習は…」
「え、何ですかそれ…
そんな事言われたら付け入りますけど…」
離れた唇が、またゆっくり重ねられた。
演じる役の相手として扱われてるのに、
練習って分かってるのに、
交わした約束もあって慰めてくれているのに…
さっき高めた気持ちのせいか、
自分の胸が壊れそうに跳ねながら動いてる。
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