scene.5

《Gkook.cut》



「…グク君…

ちょっと目ヂカラ抑えてくれる?

ぁ…ダメか、本番みたいにしてもらわないと…

あれー…

前のドラマの時はこんなにならなかったのに…」



僕の提案で監督も含めてだけれど

3人でキスシーンの確認をする事になった。


なんだか納得がいかない様子のジーンさん。

僕こそ上手く出来ないのだけれど

可愛いジーンさんが見られてただただ嬉しい。

可愛いジーンさんを俳優仲間に見られずに済み、

ほぼ独り占めに出来たから僕の提案は成功した。


あとはこの喜びが顔に出なければいい…



「ジーンさん、大丈夫ですよ。とりあえず確認」


「だね。とりあえず確認。

このシーンはハードだし

お互い裸に近いからまた撮影時に確認しなきゃ」


出来るだけ冷静に話した僕と同じく、

確認と言った監督が

'裸'というワードを出してきた。


「ぁ…裸、でしたっけ?」


「うん。ほぼ裸」


おっと…驚くジーンさん…

ニヤけずに取り繕ってるのにどうしよう。

これからキスシーンの確認なのに

ジーンさんの裸が…チラついて来た…


「それはまた撮影の時ですね。

ジーンさん、じゃあ今はキス(の確認)を(監督と)」


ニヤける前に身体を密着させ、

仕事…芝居の確認…

というなのセクハラのような行動の僕。


「グク君出来るコ…」



それでもジーンさんには真摯に芝居へ打ち込む姿…

に見えてるのかも知れない。







《Jiin.cut》



ドラマ全体の流れ、ポイントを確認して、

練習でグク君と何度かキスをした。

撮影も始まり毎日本番の演技、

毎日確認、練習が繰り返される。



「なんか僕達毎日キスしてるねー」


本物の恋人でもこんなにしないだろうし、

会ってすぐキスの練習をした僕達は

まだドラマの序盤なのに

数えきれない程キスをした。


「……」


「大丈夫?あ、練習の時はやめとく?

グク君上手いからもう本番の時だけでも…」


「…唇、痛いですか?」



僕もグク君もパイプ椅子に座り、

椅子も肩もくっ付けながら台本を広げていた。

そんな距離で見つめられるのも、

唇を重ねるのも、

こうして唇を凝視されることも、

何故か慣れないどころか

日に日にドキドキが強くなっている気もする。


そんな事悟られないように

自分をも誤魔化すけど。



「えー?痛くないよ?」


「その、唇、腫れてるわけでは…」


「…ぁーちょっと赤くなりやすい」


「優しくします」


「ぇ?ぁ、キス?本番の時?

ぁ、本番は普通にしないと…練習の時って事?」


「練習の時」


今、練習の時はやめとこうか訊いたのに…

セリフでもないのにカッコ良く答えるグク君に

ドキドキしてしまう。


そして唇が近づいて…

いつもより優しく唇が重なるから、

どこのシーンで、僕の反応は、って

一生懸命に思考を巡らせるけど…



「…これどこのシーン?」


「どこのシーンでもないです。キスの練習」


「え、だから、

グク君上手いからキスは練習しなくても…」


「全然上手くないです。キスに慣れてもない。

もっと慣れないと、本番緊張して上手く出来ない…本番はジーンさんの体も触りながらとか…」


…確かにそうか。

今でもこんなにドキドキして

僕も本番どうなってしまうか…


「そうだね、もっと慣れよう?慣れないとね」


頑張り屋のグク君の頭を撫でた。

こんなに良いドラマを撮ろうとする意気込みも

僕の唇まで気を使ってくれる優しさも

歳下なのにホントいい子だ。


周りの俳優仲間達とも目が合う。


…今のキスの練習、見られていたようだけど

温かい笑顔が沢山向けられていて

恥ずかしいけど、ホッとした。




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