scene.3
《Jiin.cut》
台本の読み合わせや衣装合わせを済ませ、
僕が先に現場をあとにした。
ずっと一緒にいたから
離れた隙に置いてきてしまったような罪悪感。
ずっと一緒にいたのに
電話やLINEの交換もしなかった後悔。
ずっと一緒に慣れて、
今でも話しかけたら返事が返ってきそうな違和感。
帰り際にマネージャーに渡された、
グク君の連絡先のメモを手にして暫く睨めっこ。
…衣装合わせ、無事に済んだかな。
…もう家かな。ちゃんと帰れたかな。
…もう誰とも話したくないくらい疲れてたりして。
明日また現場に行けば会えるのに、
何かあった時の為にと連絡先を貰ったから
僕の連絡先を知らせるという理由は
十分電話する理由としておかしくないよな…
1.2秒で繋がった様子のスマホから聞こえる雑音。
「…もしもし?」
『はい』
声が低くて、知らない人にかけてしまったかと
心配になった。
「……ジーンです、えっと」
『ジーンさん?』
「あ、えっと、グク君?
マネージャーに連絡先聞いて…」
『はい、あ、僕です、グクです』
「今大丈夫?」
『はい…お風呂から出たとこで…
どうかしました?』
「ごめん、明日でも良かったんだけど、
番号とかLINEとか何も交換しなかったから
明日も忘れちゃうかもと思って」
『あー…ですね』
「今日…どうだった?疲れた?」
『あー…まぁまぁ疲れましたけど…』
「だよね、とりあえずこの番号が僕のだから。
何かあったらかけてね。
じゃあゆっくり休んでまた明日…」
『えーーあ、ちょっと待って下さい、
切ろうとしてます?!』
「うん…また明日…グク君疲れてるし」
『けど…って、続くので聞いて下さいよ』
「えっ何?」
自分で電話しといて、
グク君の話をきちんと聞かないなんて
先輩というか人としてどうかと…自分でも思う。
『……』
グク君が何を伝えようとして、
僕は何を遮ってしまったのか、
…何かを静かに待った。
《Gkook.cut》
また明日も仕事で会えるのに、
1人になったらジーンさんを思い出して
すぐに会いたくなる。
声が聞きたくなる。
そんな願いを叶えてくれそうなスマートフォン…
なのにまだジーンさんは未登録。
帰り際、残っていた共演者の方達とは
LINEのグループを作ったりしたけど、
ジーンさんはひと足先に帰宅してしまっていた。
前回も、今日も、僕から聞けば良かった。
聞くタイミングなら何度もあったのに。
勇気なら沢山あるのに。
けど、プライベートでも繋がろうなんて、
まだ贅沢だよな……
…いやけど、明日は聞こう。
…とりあえずマネージャーに聞いてからか。
…いやけど直接聞きたいな。
寮に帰り、少し疲れた身体で
シャワーを浴びたり
黙々と明日の準備を始めようとしていた。
時折スマートフォンを手にしたりしながら。
何度目か、鳴らないスマホを手にした時、
知らない番号からの着信があった。
まさかのジーンさんからの電話。
急に声がうわずいてないだろうか…
そんな心配で出来るだけ冷静に話していると
すぐに切られそうになり焦って大声を出した。
「けど…って、続くので聞いて下さいよ」
『えっ何?』
焦るけど、きちんと伝えないと。
僕を思って早く電話を切ろうとするジーンさんに。
『……』
きちんと話を聞こうとしてくれる
優しいジーンさんに。
「…疲れたけど、
ジーンさんの声聞いたら元気になりました」
『……』
「……あれ?聞こえてますか?もしもし?」
『…ッフ、ありがと、僕の疲れも吹っ飛んだ』
耳元で笑い声と一緒に息使いまで聞こえる。
今、絶対、可愛い笑顔になっている。
そんなジーンさんがかなり鮮明に目に浮かんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます