scene.1

《Gkook.cut》



全体の顔合わせの前に、

監督とジーンさんと3人で会う機会が設けられた。

監督に付いて何気なく入った部屋、

真剣な眼差しで台本を読むジーンさんがいた。


「…初めまして…」


面接の時や、監督に会った時のような

堅苦しい挨拶をしなければと思った。

先輩相手だし、この業界で初めて仕事する僕は

礼儀を重んじなければいけないはず。

何より嫌われてはいけない。

それなのに憧れの人に会えた緊張が邪魔をして

余計に声が出なくなってしまった。


「フッ…緊張しないで?」


僕の小さな声と同じような声の量。

けどその声は優しくて、

向けられた笑顔に僕の緊張が少しだけ解けた。


「…うんうん、

このドラマ…エッチなシーンが多いから

ふたりには沢山親睦を深めて貰いたいんだ…

だから、僕ちょっと席外すね?」


「はい。分かりました。

ねー?グク君、台本全部読んだ?

まぁ読まなくても途中から…いやもう初めの頃から

エッチなシーン多いよね?グク君大丈夫?」


ジーンさんに大丈夫か訊かれ、

監督にも同じように視線を向けられた。


「はい、もちろん、大丈夫です」


監督にそう答えると、去って行く監督。


…僕は、さっきから視線をジーンさんに留まれずに

フラフラと他へ向けてしまう。

…いいんだろうか、僕で…

あれだけ自信満々に演じれると言い張っていたのに

いざ本人を目の前にして相手役として心配になる。


「……グク君攻めて来るんだよ?」


攻め…とは、まぁ…彼氏って事、だよな。


自分の座っている隣のパイプ椅子を

僕が座れるように動かしながら話すジーンさん。

その動きもやっぱりカッコいいな、とか

思いながら見てしまう。


「ドラマ初めてなんでしょ?

セリフ合わせしようよ。

実際にフリ付けてもいいし」


初対面でも、全く壁なんて感じない。

ここで僕が壁を作るのは余りにも馬鹿な事…

座りやすいようにしてくれたパイプ椅子に座った。

隣同士ふたりで向き合うと…近すぎる。

この距離が、僕を認めてくれているみたいだ。







《Jiin.cut》



とても心配そうにグク君がやって来た。


初めての場所、初めての仕事…

緊張する要素は沢山あって

それがそのまま目に見える雰囲気で現れた。

やっぱり彼は、とっても素直そう。


この伝わる緊張を、解くのは僕の役目。


監督が親睦を深める為、と僕達を2人にして

丸投げなのは僕が信用されているからか、

忙しい監督が席を外したかっただけか…

まぁ、いつも通り、初対面の相手でも

僕なりの接し方をする。


まずは台本読みをして

演じる役のキャラクターをどう思うかとか

自分だったらこう思うとか、

たとえたわいもない会話でも

ふたりの距離が近くなれれば嬉しいんだけれど…


沢山置いてあるパイプ椅子の中、

隣の席に座るように勧めると素直に座るグク君。

そして自分の鞄から台本を取り出して開いた。

睨むように…どこのシーンを読んでいるのか…


……どんな気持ちで、この役に挑もうと…



「フリ付け…えっと、じゃあ、キスもいいですか」



台本から僕へと真っ直ぐにやって来た視線。

…キス…僕達の演じる役も、

初対面でキスするような役だけど…


「…?ぁぁ練習ね?うんいいよ…」


そのまま真っ直ぐな瞳がどんどん近づいて、

…唇が重なった。


キス、だ。

…止まりそうな思考で、

記憶の中の台本を思い返す。

…そうだ、これは多分…初対面のシーンだ。


「…ぁ…えっと…"何するんだよ‼︎"」


僕の、このセリフでグク君は離れて、

強気な笑顔を僕に向けるんだ…

それなのにグク君は僕を抱きしめてきて

離れてくれそうもないのはなんでだ。


「…で、このシーンは終わりだね。

ね?ね?!グク君?」


……なんでだ。



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