MISSION 15 「ようこそハイブヘ」

 3/10 15:04 東京都 八王子市 『B.A.P.C BALLET ANT』事務所


 「ここが……事務所……」


 八王子駅を通過し、四車線の道路を北上しさらに進む。奥に進むにつれて、建物の高さが低くなっていく。緩やかな傾斜のある坂を上り、斜線は二車線にまで減少した。


 閑静な住宅街を抜け、周りに木々が少し多くなり始めた。そして、小高い丘の上に、その建物はあった。



 外観は白を基調としたコンクリート五階建ての建物。正面より左手側に併設されたガレージは、私たちが昇ってきた坂道に直結していた。


 ガレージの上には、白地に黒字が書かれた長方形の看板が掲げられていた。そこには斜体の英語で、


 『B.A.P.C BALLET ANT 』


 と書かれていた。右端にはドローンや『DOXY』に描かれていたものと同じマーク、蟻のエンブレムが描かれていた。


 「B.A.P.C……?」


 道路に止めた『DOXY』から荷物を下ろしながら、何の略語か予想できず呟くトオルコ。


 「カッキー! 荷物はこっちだよ!」


 「あっ……はーい!」


 荷物運びを催促するシロミネは、ガレージの中から私を読んできた。すぐに足元においてあった段ボール箱をひとつ抱え、シロミネのいる方へ向かう。


 すると先に荷物を詰めていたクロイとシロミネ。それとコウが段ボール箱を運んでいるところだった。


 トオルコはガレージに入る。その内側は、どこかの工場に近い作りだった。


 蛇腹状に織り込まれた金属製の折り曲げ屋根。鉄骨が骨組みとなり、なだらかな傾斜の付いたコンクリートの床は、ところどころが黒い機械油で斑模様を作っていた。


 広さは『DOXY』が余裕で入るくらいなので、高さは二階建てのアパート位といったところだろうか。横幅、奥行きもかなり余裕をもって開けられている。その奥に古ぼけた小屋があったのが、なぜか印象に残った。


 その小屋の向かいに、事務所の1階へとつながる両開きのドアがあった。トオルコが来た時には開放されており、事務所内の大型エレベーターに着々と荷物が運び込まれていた。


 いくつかの荷物をエレベーターに入れ終えた時、コウが思い出したようにシロミネに口を開いた。



 「そうそう、シロミネ。こっちの荷物は運んでおくから、カミキに事務所を案内してやってくれ」



 トオルコの引っ越しの荷物と一緒に詰め込まれていた、五人の旅行鞄をひとつずつおろしながら、シロミネに頼みごとをする。



 「俺らは、これみんなの部屋に運んだら夕飯の買い出しに行くから。カミキも何かあればさ、シロミネに聞いてな」



 「はい、分かりました」


 「はいはいっと。じゃあカッキー、ついておいで~」


 同じように荷物を下ろし終えたシロミネは、トオルコを一旦ガレージの外まで呼び出した。


 「あっはい!よろしくお願いします」


 傾いた太陽がガレージの外に立つシロミネを照らす。そこに向けて歩き出したトオルコ。二人の様子を、コウは穏やかな表情で見つめていた。


 改めて外から建物を眺めるトオルコ。ガレージから出ると、看板の真下にシロミネが立っていた。今日はネズミ色で厚手のパーカー、黒のチノパンが彼のスタイルだ。


 「じゃあ改めまして」


 咳払いをして、一息間を置くシロミネ。


 「我が事務所兼シェアハウス『H.I.V.E』へようこそ。カミキ・トオルコ君」





 ……ん。シェアハウスってなんだっけ。





 「シェアハウスって……あれですよね。ちょっと前に流行った『テラハ』ってやつの……」


 「そうそう!あれはちょ~っと僕の恋愛観的に気に入らない点があったけどね~。ドラマとしては上々だったと思うよ」


 シロミネは、髭のない滑らかな頬を色白の手で撫でながら、自身の恋愛論を展開した。


 「つまりは……男女の共同生活?」


 「そうよ?」


 きょとんと、目の前で身構える少女を見下ろす、鉄の瞳。


 「え…え…」


 トオルコは空を仰ぐ。


 「えっ……」


 そして視界に入った雲に届くであろう、あらん限りの声を出した。その声を聞いたシロミネが言うには、その声にはノリと勢いで決めた自分に対する自責と、シンプルな驚嘆が複雑に入り乱れた声だったという。

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