MISSION 10「体育館に雹の降る」

――3/9 10:15 宮城県軸丸高校 体育館内――


 「いまっ! いけぇ‼」


 コウの大声が館内に木霊する。怪物はステージ状に立ったコウを睨みつけ、跳躍の機会を伺っていた。


 命令を聞いたトオルコは、倉庫から姿勢を低くし、一目散に階段に駆け込む。


 不幸中の幸いか、怪物が物を壊し尽くしてくれたおかげで、館内は瓦礫の山が散在していた。階段までは10m弱。トレニアやパイプ椅子でできた山の脇を、縫うように駆け抜ける。


 身体中、埃塗れになっている。制服は所々破れ、その下からは血が滲んでいた。


 しかし、今更構わない。制服は今日でお役御免だし、擦り傷なんてほっとけば治る。抉り取られた床、はしゃげたパイプ椅子で躓かないよう、それでも素早く。


 そして、遂に体育館二階に通じる階段にたどり着いた。鉄製の螺旋階段を駆け上がり、ガラス張りの窓が規則的に並んだ二階に辿り着く。


 二階、といっても換気と採光用の窓を開けるために設けられた鉄製の柵でできた通路だ。柵の内側は、人一人分がちょうど通れるほどの広さしかない。中央は吹き抜けになっており、一階の様子を見ることができる。


 コウはステージをおり、瓦礫を盾にするように灰色の虎を撃ち続けていた。そして、虎は咆哮をあげながら瓦礫の山に突進した。


 「くぅ、マガジン1つ潰してもまだ動くのかよ⁉」


 直進してきた虎とすれ違うように瓦礫から飛び出すコウ。床を前転に転がり、すぐさま姿勢を立て直す。膝を着いて怪物を見据える紺色の瞳。


 怪物は瓦礫からゆっくり頭を持ち上げ、ふるふると頭の木片を払い落としていた。


 コウは、手首のスナップを生かし、エアガン本体からマガジンを弾き出す。マガジンがフロアマットに、からんと音を立てて落ちた。胸に備え付けられたマグホルダーから、新しいマガジンを引き出し、力強く銃に差し込んだ。


 ――私も早くしないと。


 自分の役割を思い出したトオルコは、ステージ側から見て一番奥から二番目の窓に辿りついた。


 姿勢を低く保ち、首に手を当てた。かちりと、無線のスイッチが押し込まれる。


 「こっ……こちらトオルコですっ! 到着しました!」


 目的地に到着した意を無線で伝える。すぐさまテクノボイスの返信が来た。


 「了解〜! あと20秒で現着。高度設定等は、そちらから指示願います!」


 「よろしくお願いします。キーさん!」


 そうこうしているうちに、校舎の屋上から風を切る音。その音は徐々に大きくなり、空を飛ぶ小さなドローン…いや大きいな。うちのコタツの倍はありそう。


 その本体の下には、布で包まれた武器が吊り下がっていた。


 四枚羽のドローンは、ゆっくりと体育館に近づく。そして私は、体育館の屋上に到達した大型ドローンを、窓を開けて見上げた。


 近づくにつれて、風がこちらにも伝わる。巨体を持ち上げる力強い気流は、私の前髪を靡かせた。


 「こちらキー! 窓との距離はどう? トオルコちゃん?」


 「はいっ! 問題ないと思います!」


 屋根の上で滞空するドローン。気流を生み出し続けるその回転翼は、正午を目前に控えた太陽の光を受けて、翼を煌めかせていた。


 「了解! じゃあ……降下開始」


 その無線と同時に、回転翼の音とは違う音。ウィンチの音だ。重いモーター音に連動して、ワイヤーに繋がれた荷物がゆっくりと降ろされる。


 やがて、荷物は窓と水平になる位置に到達した。


 「位置OKです! 今から回収します!」


 【了解〜重いから気を付けて!】


 無機質な機会音声が、注意を促す。窓と荷物の距離は約30cm。腕を伸ばし、荷物に手をかけて持ち上げる。思ったよりも軽い。


 まず荷物を窓の内側にいれ、ワイヤーと荷物を結ぶカラビナを外そうと手をかける。


 その瞬間、冷たい春の突風がドローンを襲った。


 「あっ……」


 お昼前の、ささやかな陽気を乗せた風に流されるドローン。そして、ウィンチから伸びたワイヤーは、トオルコの腕を絡めとる。


 【ワイヤー切り離し……マニアワナイ⁈】


 まるで春風に引き寄せられるように、トオルコの体は、窓からすり落ちた。


 重力に従い、落下する感覚。迫る地面。無意識に目を強く瞑った。


 ドローンは滞空姿勢を崩し、地面に叩きつけられる。炸裂するドローンが壊れる音、暗転する意識の中で、耳障りな感覚を残した。





――――






 「カミキ⁉ おいカミキ⁈」


 コウは叫んだ。少女の姿が見えない窓に向かって。ゴーグルを伝う冷たい汗。


 その瞬間、彼は正面に鎮座する灰色の殺意から目を逸らしてしまった。


 「⁈ しまっ……!」


 瞬時に視線を戻すコウ。しかし、彼が見たのは赤い複眼が描く軌道と、迫りくる白い牙の羅列。


 天井から舞い降りる死の化身。赤く染まった牙と、肉球のない前腕から伸びる爪を構えたまま、怪物はコウに覆いかぶさった。


 数百キロはあろうその体の猛攻を受けたコウの体は、硬質なフローリングに叩きつけられた。


 「がぁぁぁ!」


 館内に響く轟音。叩きつけられた脊椎が軋む。


 「クソがっ……!」


 噛みつかれまいと、怪物の口に愛銃を差し込む。


 がちがちと不愉快な音。巨大な爪がエアガンに傷を穿つ。灰色の虎は体重をかけてコウにプレッシャーをかける。


 三つの複眼が目の前でぎらつく。腕は軋み、肩はヒトが受けられる荷重の限界を既に過ぎていた。


 それでも、彼が怪物を凌ぎ続けられているのは、日頃の鍛錬の成果か。それとも火事場の馬鹿力か。


 しかし、コウは眼前の怪物ではなく、少女が消えた窓を見続ける。


 刹那、願うように強く目を閉じる。そして声の限り、少女の名を叫んだ。


 「トオルコォォォ!」





――――





 呼応するように、少女はゆっくりと目を開けた。


 「……生きて…る」


 もう粉々になったと覚悟した体は、五体満足問題なしだった。


 ――なんで、落ちたよね? 私。


 トオルコは頭を整理する。そして、視覚情報から5m下にドローンの残骸が散乱していることと、自分の視界が上下反転してること。


 そして触覚から、左足になにかが引っかかっている感覚。さらに落ちたドローンから伸びたワイヤーが自分に向かって伸びていることを確認した。


 無意識に、視線でワイヤーを辿る。


 垂れ下がった黒髪をかきあげ、足下を見る。


 「あ……ワイヤーが……」


 足首にワイヤーが絡まっていた。


 「くっ……痛い……窓に手が届けば……」


 いくら落ちなかったとはいえ状況はまずい。体を屈曲させ、窓に手を伸ばす。足首に血が溜まり続ける感覚。全体重がこのワイヤーにかかっているのだから当然か。


 「ああよい……しょ!」


 くの字に曲げた上半身。なんとか窓に片手をかける。


 風が強く吹いている。暖かさを孕んだ風が、トオルコの髪を乱暴になでる。


 そして、窓にかけた右手を軸にするように体を引き寄せ、右手をかける。


 ワイヤーが絡んだ足に動きにくさを感じながらも窓に上半身から飛び込んだ。館内の通路に転がり込んだトオルコは、足首のワイヤーを解く。


 肌に刻まれたワイヤーの痕は、青紫に変色していた。足首全体から感じる鈍い痛みに顔を歪める。


 「……! コウさんは……?」


 二階の吹き抜けから一階を見下ろす。そこで目にしたのは、灰色の虎が、コウを床に押しつけている光景だった。


 銃を盾にするように抵抗するコウ。銃に牙をたてる怪物。赤い血が滴る顎は今にも、銃ごと男の頭蓋骨を砕こうとしていた。


 「コウさん‼」


 鉄製柵から身を乗り出し、男の名前を叫ぶ。


 「生きてたかカミキ!」


 少女の顔を見るコウ。安心も束の間、タイミングを見計ったかのように、怪物の凶悪な前腕が振り上げられる。


 「っうわっと!」


 頭部目がけて放たれた一撃を、首を捻らせ回避する。掠めた怪物の爪が、コウの左の頬に傷を作った。


 「っ! まずい! どうしよう⁉ どうしよ⁈」


 刹那、動揺が思考を支配する。きょろきょろと周囲を見回したとき、足に何かが当たった。


 床を見る。そこには、ついさっき回収した荷物が転がっており、灰色の布から鈍い光を放つ何かがはみ出していた。


 それは、マットな質感で統一された黒い大型の銃だった。


 「武器……武器!これだ!」


 反射的に布を剥ぎ取る。そして、その武器を掴み取った。


 「これがグレポン……?」


 警察が持っていそうな拳銃を大きくして、ゴツくさせたような銃。短く太い砲身と、大きくせり出したリボルバーが、ずんぐりとした印象を与える銃だ。


 「っこれでぇ!」


 肩にストックを当て、グリップを握る。銃の重さに一瞬よろけながらも、フォアグリップで姿勢を保持する。グレポン本体にある、簡略的な円形のサイトを覗く。サイトの向こうに怪物の姿を見た。


 そして傷だらけの少女は、トリガーを引く。その瞬間、炭酸が抜けたような音が館内に響いた。


 一発のモスカート弾に込められるBB弾は120発、普通のエアガンのマガジンに込められる量と同じだ。


 しかし、グレポンはこの量の弾薬をする。瞬間的な火力は他のエアガンの比ではない。


 気の抜けるほど軽い発射音。


 しかし、同時発射された120発の弾丸は、灰色の虎の背に直撃した。弾丸は雹の如く怪物に降り注ぎ、文字通り蜂の巣を形どるように背に穴を開けた。


 そして、怪物は天に向かって耳をつんざくほどの悲鳴を上げた。連続的に結晶化する怪物の体、氷を崩すように落ちる体細胞。


 館内に反響するバルーンの絶叫が、トオルコの耳を揺らした。


 「すごい……これがグレポン……」


 砲身から漏れるガスの硝煙がトオルコの頬を撫でる。的中しなかったBB弾が獣の周囲にぱらぱらと落ちた。怪物は腕の届かない背中の痛みに悶える。


 その瞬間、コウの体を押さえつける力が緩んだ。


 「⁈でかしたぞ! カミキ!」


 二階に立っていた彼女に叫ぶと、怪物の足の隙間を滑るように抜け出す。 散らばったトレニアや、パイプ椅子の残骸がヘルメットにぶつかり、黒いヘルメットに白い擦り傷を作る。


 解放されたコウは、怪物の背後を取った。ブーツの靴裏で、怯んだ怪物の頭部を踏みつける。


 露出した赤黒い臓器は、透明なプラスチックを思わせる骨格で守られており、哺乳類の構造とさして違いはないように見えた。


 筆洗にたまった絵具で汚れた水を、ビニールで覆ったような赤黒い臓器。


 そして、コウは怪物の肋骨の隙間から銃口を差し込み、セレクターをフルオートにスイッチする。


 踏みつけられた怪物の複眼に、男が映る。合わせ鏡のように映された男の眼は、冷たく言い放つ。


 「感謝してくれ。マガジンの残弾を全部くれてやる」


 そして、トリガーが引かれた。間髪を入れずにBB弾が流れ出る。怪物の臓器に叩き込まれる弾丸は、怪物の臓器を間違いなく破壊し、蹂躙した。


 館内に木霊する発砲音。その音はひどく爽快で、怪物を倒す音にしては拍子抜けするほどさっぱりしたものだった。


 カチン。と金属音が鳴る。弾を撃ち切ったのか、コウは銃口をバルーンの肋骨から離し、マガジンを外した。頭を踏みつけていたブーツを下ろし、つま先でフローリングの床を叩いた。かつかつと澄んだ音が鳴る。


 トオルコはその様子を横目に見ながら、階段に向かって駆け出し、おぼつかない足どりのまま、一階に降りる。


 そして、怪物の横に佇むコウの隣にたった。とうに事切れた怪物は、その様子を見届けたかのように、その体を結晶に帰していった。結晶化するにつれて、三つの赤い複眼から光が失われていく。


 強靭さを誇った体躯も、規則的に並んだ牙も、豪腕も、すべて結晶になる。 


 バルーンの死を、改めて凝視するトオルコ。幻想的にも見えるそれは、怪物が氷の棺に仕舞い込まれるように錯覚させた。


 そして、怪物に引導を渡すキッカケになったのが、このグレポンをもった自分であり、その事実がトオルコの思考に細やかな影を落とした。


 今更になって、両手にもった凶器の力に畏怖の念が、ゆらりと湧き上がる。カチリとセーフティを戻すコウ。強ばんでいた肩を落とし、深くため息をついた。


 「ありがとう、カミキ……無線借りてもいいかな?」


 反応がない、トオルコは茫然と目の前の結晶を見つめたままだ。


 「おい……カミキ……大丈夫か?」

 「!……すいません。ぼーっとしてました」


 肩をたたかれ、意識を引き戻すトオルコ。


 「おう、無事でよかった……無線借りるぞ」

 「あっ……はい。お返しします」


 ひとまず、グレポンを置き、首に巻かれていたチョーカー型の無線機を外す。フェイスマスクも外す。ヘルメットを外すとき、がちがちと髪留めが抵抗するように擦れ合った。


 ゴーグル以外の装備を返した。なんとなく落ち着かなくなり、前髪に付けた髪留めをさするトオルコ。


 チョーカーを手に持ったコウは、マイクのボタンを押した。


 「アント1からバタフライ、館内のジープ級バルーン、討伐完了。校庭の状況を報告せよ」


 落ち着いた声で、無線を送るコウ。数秒ほど間があき、ヘルメットのスピーカーから返答が帰ってきた。


 【こちらバタフライです……支援隊が到着し、校庭のC型討伐もひと段落しました……】


 落ち着いたコウの声に対して、こちらは疲れ切ったような沈んだ声。


 そういえば、アンドロイドのあの子はどうなっているのだろうか。ぶら下がってる時から連絡がなかったけど。


 【もうすぐそちらにアント2.3が到着すると思いますが……】

 「おい! クソ隊長! 生きてる⁈」


 無線の相手が言いとどまったのと、女性が館内に躍り出たのは、ほぼ同時だった。開口一番で罵声を叩きつける女性。荒っぽそう。


 「ヒュウ、こちらもひと段落ですね隊長」


 開口一番で口笛を吹く男性。優しそう。


 二人とも、コウと似た装備を身につけていた。胸の前には、コウと同じエアガンが携えられており、カーテンから漏れた淡い光が、鈍く光を帯びていた。この二人が、点呼の時に無線を賑わせていた二人だろう。


 「おお。そちらも無事でよかった」


 飄々と2人の安否に安堵するコウ。


 「無事でよかっただぁ⁈ こちとら最後の多弾倉マガジン使い切るとこだったぞ! サブアームまで使うとこだったんだからな!」


 「まあまあ、クロちゃん。とりあえず支援部隊も間に合ったわけだし。こうして生きてるからいいじゃんか〜」


 「結果論だろうがシロミネ! ああもうなんでうちには楽天家しかいないの⁈」


 クロという女性のヒステリックな声が館内に反響する。それを穏やかに包むような口調で宥めるシロミネという男性。総じて、いいコンビ。トオルコが得た2人の第一印象としては、この印象が鮮烈だった。


 「んまあ、反省会はちゃんとやるぞ。牛タン食べたあとな。ちゃんと肉は倍にしとくから」


 コウがぽりぽりと頭を掻く。やれやれと顔をしかめ、ヘルメットを頭にかぶり直した。


 「して、そこの女の子が今回のMVPってことでいいのかな?隊長」


 「んああ、そうそう。負傷した2人の民間人を救助し、グレポンをジープ級に直撃させ、俺を助けてくれた女子生徒。神木透子だ」


 「あ……えと……カミキです……はじめまして……シロミネさんと……クロさん?」


 バツが悪そうにたっていたところ、急に紹介をされ驚くトオルコ。


 「うんうん、僕はシロミネ。こっちがクロイ。よろしくと……隊長を助けてくれてありがとうね。トオルコちゃん」


 「あ……いえ……別に大したことは……私も助けられた一人ですし……お礼なんてそんな……」


 シロミネと名乗った男性は、握手を求めて手を伸ばす。それに手を重ねたトオルコ。なんとなく頬に赤が指すのがわかる。


 「お前が隊長と……民間人二人を助けた女子生徒なんだな?」


 その様子を離れたところ見ていたクロイが割り込む。黒い瞳の視線が突き刺すようにトオルコを見る。この距離なのに圧迫感を感じさせる。


 「えと……はい……私です。助けたというかなんというか……」


 衝動に突き動かされた。教師と保護者の二人を手助けしたことの理由はこれしかなかった。


 上手い言葉が見つからず、もごもごしてると、ブーツの踵が高い音を鳴らして近づいてくるクロという女性。


 「自分も大変だってのに、けが人の手当てと脱出ルートの確保、隊長の尻拭いに付き合わされて、グレポンでジープ級に致命打を与えるなんて……」


 俯きながら、かつかつと近づくクロイ。ぶつぶつと呟いている時の一言が刺さったのか、コウは顔をしかめる。


 「馬鹿としか言いようがないじゃん……」


 怒鳴られる……トオルコは覚悟して強く目を瞑った。


 ……しかし、反応は実際真逆で、


 「最高じゃん! クールじゃん! カッコいいじゃん! かわいいじゃん! 気に入ったぜぇこいつこいつ〜!」


 クロイはトオルコの頭を抱きしめ、ぐりぐりと頭を撫でた。


 予想を裏切られたトオルコは、頭を白黒させながら、されるがままに振り回される。ちょっと硬いタクティカルベストが胸に押しつけられる。華奢なトオルコの体は、振り回される一方であった。


 「へえ……珍しいこともあるもんなんだね〜。クロイが人を気に入るなんて」


 シロミネがヘルメットを外しながら、銀髪をかきあげ、物珍しそうに2人の様子を観察していた。


 【バタフライから共有無線、C型の殲滅が完了したと支援部隊から報告が来ました。大破したドローンの回収は、タールを焼却した後になります】


 「アント1、了解。キーの様子は?」


 恐らく現状で無線を聞いている唯一のコウが、返答と質問を送る。


 【今はスリープモードに入ってます。いかんせん、高度演算の精密作業中に起こった強制リンク切断ですからね……でも、再起動すれば元気な姿が見れますよ】


 安心したコウは、ふうと息をつく。改めて、チョーカーのボタンを押して、今回最後の無線を通達する。


 「アント1から共有無線。現時刻を以って、状況終了を宣言する。隊員の負傷者ゼロ。あとは支局の連中に任せる。オーバー」


 全隊員と、1人に対して送る無線。カチリと無線を切ったコウは、ただ一言。


 「無事でよかった……」


 誰にも聞かれないように小さく優しい声で、自分自身に語りかけるように呟いた。

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