MISSION 6「反撃のBB弾」
――― 3/9 10:01 宮城県軸丸高校 駐車場 戦闘車両『DOXY』 ―――
「ジープ級⁉ 館内のバルーンはB型じゃなかったんですか⁈」
駐車場でただ一台、黒塗りの大型車両が一台。その運転席でモニターを見つめながら、トキワが話す。
無線の向こうでノイズとなって耳に届けられる金属音。パイプ椅子が倒れた音だろうか。時折、木材がへし折られるような音も聞こえる。
車内では運転席にトキワが座り、助手席にキーが座っている。隊長と今後の作戦を考えるために、キーに公的機関との連携とドローン管理の作業を並行して行っている。
――もとより、ドローンの管理はキーの仕事ではあるが、公的機関との連携は基本やらせていなかった。何分、普段のノリがあれなので、相手に敬遠されることが多かったからだ。
しかし、やる気スイッチが入った彼女ならいけるだろうと今回は任せてみたトキワ。
「え、良いの?!」と笑顔で言われたときは流石のトキワもドキッとしたが、落ち着き払っていて、問題なくタスクをこなしている。
この子も成長したなぁと感心するトキワ。時折、「え~それはそちらの管轄じゃないんですか~?」となめた口調が聞こえてくる。
力なく頭を横に振る新人オペレーター。
【いや、死骸を見た限りB型だ。……まあ、はずれを引いたってやつだな】
「そうかもしれませんが……」
言葉尻が濁る。トキワは口元を覆い、考え込む。
「というか、さっきの振動は何だったんですか? 駐車場にまで響いていましたけど……」
【ああ、奴が飛びついてきたとき出口まで続く通路に突っ込みやがったんだ。おかげさまで通路は崩れて袋のネズミって感じだな】
あっけらかんと話すコウ。
【この女子生徒に腕を引かれてなかったら、二人そろって下敷きになってたぜ?大した反射神経だぜこの子】
ぽふぽふと優しい音が聞こえた。たぶん、女子生徒の頭を撫でたのだろう。トキワはまたしても力なく頭を振る。
――セクハラか。これも後で叱ってやらないと。
【んで、奴が崩れた天井のがれきで苦しんでる間に、横の倉庫に逃げ込んだってわけだな。これもこの子がいなかったら詰んでたな】
「命からがら……というやつですね。まあいつものことですが」
先ほどからコウの声が小声なのはそのせいかと、納得するトキワ。空いた手で、乾いた口をエナジードリンクで潤す。
――しかし、B型とC型の同時出現。ただでさえ大型の出現率が低いB型からジープ級が発生し、校庭ではC型が発生している。偶然にしてはどうもきな臭い。
思考を巡らせるが答えは出ず、トキワは詮索をやめ、無線を開いた。
「とにかく、今はバルーンの討伐です。あと20分ほどで支援部隊が到着しますが……持ちそうですか?」
【正直しんどいな。アイツ俺たちがいそうなところ手あたり次第漁ってるな。時間の問題って感じだ】
「まずいですね……館内の見取り図を見る限り、外に続く出口はそこだけですし……」
――通常装備での大型種討伐、バルーンの展開率が同系統四種類の中で最も高いC型、この状況を三人のハンターで御しきるのはあまりにも苦しい。回答を出しかねているとき、
【アント1からバタフライ。キー、無線をとれるか?】
コウからキーの指名。助手席のキーと目を合わせる。すぐさま、キーの行っていたタスク画面をこちら側のモニターにミラーリングさせ、仕事を引き継ぐ。
引継ぎの完了を確認した後、キーがヘッドホンの右耳にあるマイクボタンをONにスイッチした。
「はい! キーですっ! 隊長! 私初めて公的機関との無線共有やったんですよ! すごくないですか⁈」
【おお。まじか。キーもそこまでできるようになったかあ。これなら本部のAIにも勝てるかもなっ。】
「ほんと⁉ やったー‼」
任務中とは思えない無線。遠慮なく嬉しさをかみしめるキーと、小声でべた褒めするコウ。
さっきまで毅然とした態度で、仕事をこなしていたにもかかわらず、尻尾を振る子犬のように甘えるキー。
彼も彼でキーに甘いのには困る。彼女のガッツポーズ横目に溜め息をつくトキワ。
『HQシステム』でリンクした車内の管制室兼運転席では、トキワとキーの2人に無線の内容は共有される。つまり、隊長の甘すぎて胃もたれするようなキーへの誉め言葉も聞かされるのだ。
――作戦中における無線回線の個人独占。また反省会か……
反省会の内容を考えながらトキワは手元のタブレットを操作し、すでに校庭に展開した一機のドローンの状態を確認していた。
ドローンに搭載されたカメラから送られた映像には校庭の様子が写っている。
10mほどの上空から見下ろす視点からは、校庭の中央に現れた3mほどの黒い水面。次々と灰色の怪物が湧き出るように現れている。
――さすがは展開率最大のC型といったところか。
画面の端では二つの黒い点。クロエとシロミネだ。二人の前方には既に20体以上の結晶が横たわっていた。しかし、そのペースでは消化しきれないほどの数が押し寄せてきている。
トキワはふと、右腕につけたG-SHOCKを見た。液晶画面は10:07をさしている。支援隊が到着するまで13分。バルーンの発生するペースと、二人の疲労具合を考慮する。
――校庭にいる二人のマガジンはおそらくギリギリ持つであろうが、単純に人手が足りない。やはりこの状況は芳しくない。おそらく隊長もこの状況が苦しいことは、十分理解しているだろう。
【じゃあ本題に移るかキー。そっちにグレポンがあったはずだ。それを『ドローンT』で体育館二階の窓まで輸送してくれ。できるか?】
「えっと……輸送はいつもやってるから、できるけど…あれ結構大きいから普通の窓なんかじゃ館内に入れないよ?」
キーがタブレットの画面を切り替える。ドローンの管理画面が写り、『ドローンT』の管理タブを開く。画面を操作しながら会話を続けている。
キーの画面に映る輸送仕様の『ドローン transporter』。1mを超える大型ドローンの管理画面を開き、『DOXY』のネットワークとリンクさせる。
一人暮らし用こたつを一回り大きくしたドローンの寸法と、体育館の見取り図を確認し、窓から入れないことを確認したキー。
すると、無線から妙に落ち着いた口調で語りかける男性。
【入れる必要はない。窓まで寄せてくれればいい。】
「えっどうやって回収するんですか? 窓まで辿り着く前に隊長、バルーンのおやつにされちゃいますよ……?」
【ふうむ。ぞっとする言い回しだな……でも、ここに頼れる人手がいるじゃないか】
キーが首を傾げる。一通り、『ドローンT』の起動準備を終えたキーは管理タブを閉じ、体育館の図面を画面に写した。
キーの横に座っていたトキワは、『頼れる人手』という言葉に妙な違和感を覚えた。そして、その違和感はコウによって発せられた提案によって立証された。
【俺がジープ級を引き付けている間に、女子生徒に回収してもらう。どうよ、名案だろ?】
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