52.
雨の気配のまるでない、抜けるように晴れた日曜日の午後だった。
この間見つけたカフェに紗江は訪れていた。手にした本を開いたまま、向かいの通りを眺め続ける。昨日も、今日も。
週末だからなのか、歩く人も流れていく車もいつもより多い。その全てに紗江は視線を向けた。
見つけないようにと、ただ、祈って。
テーブルの上のアールグレイは二度目の注文のものだった。それももう残り少ない。陽が傾きかけていた。
時間的に家路に向かっているのだろうか。向こう側の車の流れのほうが少し多くなっていた。車が多くなってきているせいか流れが悪く信号の変わり目ごとに通り抜けられる車の量も目に見えて減ってきていた。
あと一時間、あと三十分、あと十分…
何をどうすれば自分の気が治まるのか、紗江にはわからなかった。ただ、執拗に待ち続けるしかなかった。
そうして、見なければよかったものを見る羽目になるのだ。いや、それこそが見たかったものかもしれなかった。
カップを持つ手が静かに下がり、ソーサーに当たってカチリと高い音を立てた。
目にしたのは、どこにでもある幸せそうに連れ立って歩く一家族の姿。
父親と母親の間で手をつながれて歩く少年。父親の肩にはその少年より小さい少年が父親の頭にしがみついて何やら母親に話しかけている。どこからどうみても何の心配もない幸せな家族の絵。
その父親が正樹にそっくりな点を除けば。
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