39.
紗江は駅で待っていた。すぐに会社を出たからかなり早く駅についていた。そして、紗江が駅に着くのを待っていたかのように雨が降り出した。
「やっぱり、雨…」
降り出した雨は瞬く間に街路樹を濡らし、アスファルトの色を変えていく。あっという間に、街はどこもかしこも濡れて煙っていた。
その様子を見ていた紗江の耳に、小さくクラクションの音が届いた。その音に気づいた数人が、音がしたほうを訝しげに眺め、自分に関係ないことが分かると再び本来の目的を思い出しその場から去っていった。
車はゆっくりと紗江の目の前に止まり、助手席側の窓を静かに開けた。
「待たせてごめん」
「いえ、そんなこと」
時間よりも早く来ていたのは紗江の勝手である。であるにもかかわらず、正樹はそう言って謝った。
「乗って。濡れるよ」
促されるままに助手席に座り込むと、車はすぐに動き出した。
「久しぶり、だね」
「あ、はい」
正樹は運転をしているので、視線だけを動かして瞳を細めて紗江を見た。
久しぶりに聞いた正樹の声に、紗江は居心地悪そうにシートの上で何度も座り直した。車内、だからだろうか。いつも以上に体に響く彼の声に、背中を撫で上げられたように小さな震えが走った。
「とりあえず、何か食べようか。リクエスト、ある?」
「特には…」
「そっか。うーん、どうしようかな…。紗江、パスタ、好き?」
「あ、はい」
「じゃ、今日はパスタだ」
そう言って正樹は車を加速させた。
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