28.

 お腹が減っていたのであろうか、手にしていたおむすびを3口ほどで食べてしまうと、正樹は次を要求した。


「えっと、昆布、あったっけ」

「ええ」

「じゃ、次、それもらえる?」

「あっ、どうぞ。お茶もいります?」

「うん。もらうよ。ありがとう」


 2つ目もあっという間に口にしてしまうと、またもや、おかかと昆布のおむすびを要求し、それもあっという間に食べてしまった。


「次はどれを食べます?」

「もう十分頂いたよ。ありがとう」


 そう言って正樹は熱いお茶をすすった。

 それまでの様子を見ていて、紗江には気になることが一つあった。


「もしかして、おかかと昆布が好きなんですか?」


 紗江の一言に、正樹はお茶を口以外の器官へと送り込んでしまったようだ。


「なっ、どうして」


 呼吸を整えながら、正樹は何とか疑問を口に出せた。


「なんとなく、です。おかかと昆布ばかり食べていたし」


 図星だったのだろう。正樹はバツが悪そうに車の前方を見た。


「あー、うん。実は、かなり」


 イタズラを咎められた子供のように、正樹は右手で頭をかいた。


「梅と鮭は嫌いなんですか?」


 もしそうなら、余計なものを作ってしまったと、紗江は後悔した。


「いや、そうじゃないんだよ。食べることは出来るんだ。ただ、ね…」

「ただ?」

「梅干とかすっぱいものはあまり好きじゃないんだ。あ、でも、そんなにすっぱくないのは食べるんだよ。うん、ほんとに。残りは後で食べるから、そのまま置いといて。それよりも」


 言葉を切った途端、正樹は紗江の手を握ったかと思うと、そのまま自分の膝の上にその手を乗せ、リクライニングを倒した。


「ごめん、限界。ちょっと寝かせて」


 そう言って正樹はその目を閉じた。

 手を握られたまま一人取り残された紗江は、すぐに軽い寝息を立て始めた正樹の顔を、赤くしたままで見つめた。車のウインドウを優しく叩く雨音を聞きながら、紗江もいつしか眠りに落ちた。

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