20.

 どこかでPipipiと機械的な連続音が聞こえてくる。これはいつもの携帯の目覚し音だと紗江が気づくのにそう時間はかからなかった。

 いつもの調子で枕元に置いてあるはずの携帯に手を伸ばす。しかし、その手は何も掴むことができなかった。が、代わりに何かに触れた。そして、その何かに逆に掴まれてしまった。


 驚いて紗江が身を起こすのと、記憶が蘇ってくるのがほぼ同時だった。起こしかけた体に何も身に着けていないことに気づき、紗江は再びその体をシーツの上に倒した。


「おはよう」

「おはよう、ございます」


 思わず挨拶を返してしまい、真正面から目を合わす形になってしまった。


 正樹はたとえようもなく優しい表情で紗江を見つめていた。

 どうやら紗江が起きるより先に目覚めていたらしい。その表情は寝起きというにはすっきりしすぎていた。


「あの、ごめんなさい。携帯の目覚しが」

「ん?あぁ、バッグの中?」

「はい」

「ちょっと待ってて」


 そう言い置いて、正樹はベッドから抜け出した。自分の今の姿から正樹の姿を想像して目を逸らしかけた紗江だったが、予想に反して正樹は下着を身に着けていた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 手渡されたバッグを受け取り、中で震えながら音を出し続けていた携帯の動きを止めた。その様子を見ながら、正樹は再びベッドの中に潜り込んできた。


「起きるのはいつもこの時間?」


 横になって肩肘をつき、紗江を見上げながら正樹が聞いてきた。


「はい。いつも早めに起きるんです」


 紗江は早めに起きてゆっくりと食事を取るのが日課だ。けれど、今は自宅ではない。


「すいません。こんなに早く起こしてしまって」


 いくらなんでも空が白みだしたこの時間は、普通の人には早すぎる。


「気にしないで。ちょっと前に起きたところだから。でも、さすがにまだちょっと早いかな」


 正樹は手を伸ばし、紗江の肩を抱いて倒し、自分の横に寝かせた。


「あ、あの」

「ん?まだ早いでしょ」


 そう言って正樹は昨夜と同じ熱いキスを紗江に浴びせた。そして再び高みへと紗江を導いた。

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