ロンドン橋落ちた

「お帰りなさい。」

夫が帰ってくる。最近は私を気遣ってか帰りが早くなっている。

「今日はビスケットとクッキーを焼いたの、食べて。」

「そうか、ありがとう。でもどうして急に?」

「昨日ね、夢であかりちゃんとのお茶会をしたの。私たちその時クッキーとビスケットとロイヤルミルクティーでお話してたのよ。」

夫は少し怪訝そうな顔になったが、すぐに笑みを浮かべてくれた。

「そっか、俺も混ざりたかったな。もっとあかりと話がしたかったし、出かけたかった。仕事を言い訳に今まで任せっきりにしてしまったこと、これが申し訳ない以上にもったいないことをしたと思えるんだ。」

そうか、夫もあかりちゃんとおしゃべりしたいのか。あかりちゃんが話せるようになったら夫にも会わせてあげよう。それで私たち家族の日常を取り戻すんだ。

夫とのお茶会の後、私はあかりちゃんに会いに行った。

「どう?痛くない?」

あかりちゃんはしゃべらない。

今日もあかりちゃんのベッドでマザーグースを読む。今日はあかりちゃんを寝かせたままだ。

シナモンのいい香りがするようになったあかりちゃんの横で目を閉じる。今日はどんな夢が見られるのか。

橋の上にあかりちゃんがいた。

【ロンドン橋落ちた 落ちた 落ちた】

このフレーズも聞き覚えがある。私は急いで橋に上った。

【ロンドン橋落ちた】

「ちょっと待って、その子の代わりに私がなるわ」

【マイ・フェア・レディ】

私が橋のため落とされた。

落とされる間に目が覚める。これがきっと最後のピースだ。あかりちゃんには命が足りなかったのだ。その命は私が代わりにあげることで満たせる。

そう受けとった私は台所で包丁を手にした。

そこでもいろいろと思考が巡る。あかりちゃんには命が足りない。私はあかりちゃんの成長がみたい。でもあかりちゃんには命をあげなきゃあかりちゃんは成長できない。でも私が命をあげれば成長が見れない。このループだ。

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