女の子は何でできている?
「お帰りなさい。最近何もできなくてごめんなさい。」
「しょうがないよ。君が悪いわけじゃないさ。今は傷を癒すことに専念しよう。」
夫にはすべてお見通しらしい。指の傷に気付かれてしまったみたいだ。夫は私をとても気にかけてくれる。
「そうだ。君、何か食べられるか?今日は俺が準備するよ。座って待っていればいいさ。」
「でも申し訳ないわ。」
「辛いことは夫婦で分け合うものだろう?今はこうさせてくれ。忙しくしていないと俺が辛い。」
そういわれて、その言葉に甘えることにした。食事の味は覚えていない。
今日もあかりちゃんのベッドでマザーグースを読んだ。今日はあかりちゃんを膝の上に乗せることができた。こんなにうれしいのは久々だ。見た感じあかりちゃんも嬉しそうだが、あかりちゃんから声が聞こえて来ない。あかりちゃんとおしゃべりできないのは寂しい。私はあかりちゃんが生まれてすぐのことを思い出す。あの時は全然言葉も伝わらず一方的に話しかけるしかできなかった。きっと今はそれと同じ状況なのだ。もしくは何かが足りないのだ。その一抹の寂しさを抱えながらあかりちゃんのベッドで目を閉じた。
この日も夢を見た。あかりちゃんとのお茶会だ。シナモンシュガーを塗したビスケットにジンジャークッキー、ロイヤルミルクティーがそれを彩る。あかりちゃんが笑いながら歌っている。とても聞き覚えのあるフレーズだ。
【女の子は何でできている?】
【女の子は何でできている?】
【砂糖にスパイス、それに素敵なものすべて】
【女の子はそれらで作られている】
そうか、今のあかりちゃんにはそれが足りないのか。起きたら考えよう。
翌日私はスーパーでジンジャーとシナモンシュガーを購入した。素敵なものはあかりちゃん、これは自明だ。
あかりちゃんの背を裂いてその中にジンジャー一瓶、シナモンシュガー一瓶、砂糖をさらに大匙二杯入れた。そうして背を閉じる。
「おはようあかりちゃん」
あかりちゃんは挨拶を返してくれなかった。そう、まだ何か足りないのだ。もう少しでしゃべりそうなのに。一体何が足りないのだろう。
大手術の後なので、私は優しくあかりちゃんをベッドに横たえた。
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