ちらかしっぱなしの男

気がつくと私は家にいた。夫曰く私はここ数日ずっと魂が抜けたようになっていたそうだ。私と違って頼りになる。

しかし、今でも実感が湧かない、感じたくもない。認めたくない。

少しでもあかりちゃんのかけらを感じたくてあかりちゃんの部屋に行く。実はそこにまだいるんじゃないか、私はそんな妄想をしながら部屋に入る。いつものように散らかっているが、今回はそれが愛おしかった。あかりちゃんのベッドに座り、本棚の本を手に取る。マザーグース、私がよく読み聞かせていたものだ。『ちらかしっぱなしの男』、『女の子は何でできている』、『ロンドン橋』-。今読むと奇妙な文章だが、なぜかこの話を気に入ってあかりちゃんは持ってきたものだ。今読めばあかりちゃんは帰ってくるだろうか。あかりちゃん大事にしていたぬいぐるみを膝に抱き、私はこれを読みはじめた。あかりちゃんに読み聞かせているときの思い出が蘇り、私はとても辛くなって途中でやめてしまった。娘との思い出がつらいだなんて母親失格だ。許してねあかりちゃん。

この日はそのままあかりちゃんのベッドで眠ってしまった。夫は何も言わなかった。

私はその日夢を見た。ちらかしっぱなしの部屋の中にあかりちゃんが散らされていた。

最初私は悪夢だと思っていたが、さっき読んだあるフレーズを思い出した。

【頭はごろんとベットの下に】

【手足はばらばら部屋中に】

もしかして、パーツをつなぎ合わせればあかりちゃんに戻るのでは?起きたらあかりちゃんの手足と頭を拾って縫い合わせてみよう。

翌日、私は起きてすぐに手足と頭を拾った。階下に下りて時計を確認すると、翌日だと思っていたがどうやら三日経ってしまったらしい。夫はもう出かけてしまったみたいだが、夫には申し訳ないことをした。負担をかけてばかりだ。

今日はあかりちゃんを作る。手足を縫い合わせて、頭を縫い合わせてみよう。洋裁には自信があるのだ。あかりちゃんの手提げ袋も、あかりちゃんの雑巾も、あかりちゃんの洋服の一部も私が縫ったものだ。今度はあかりちゃんを縫うことになるとは思ってもなかったけど。

あかりちゃんができたので、あかりちゃんのベッドに寝かせる。我ながらなかなかうまく縫えたのではなかろうか。途中で指を突いてしまったけど。

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