第19話
夜、シャッターを開けたのは肌がしわくちゃになったおばあさんだった。
「こんばんは」
いつも通り挨拶をしたが、おばあさんは私をじっと見つめて
「ここの所来るのは、わりかしきれいな服を着てけがをしていてもたかが知れている。そんな奴ばっかりだね」といった。
「私に比べたら、家出するような状況になんて陥ってなんていないだろうに、なんでそんなことで出てくるんだか」
「ごめんなさい」情けないことに、誤れば許してもらえると思ってしまった。でも、それ以外に何ができたというだろう。
「そんな事言っていないで、さっさと家に帰ればいいのさ」
「それを家出したときのおばあさんに行ったらどうする?」そう、私が言うとおばあさんは黙ってしまった。
「何があったの? どうして家出したの?」
「親が死んで、働きに出されたんだ。満足にご飯がなく、休むこともできず毎日働かされた。幼かった私は、耐えられなくなって、このままここにいたら死ぬと思ったんだ。目を盗んで必死に逃げたよ」
「ここには長い間いた?」
「ああ、ループのせいで、成長することもなく、ただ繰り返し、昼も夜もここに来る人達の様子を見て、話をして過ごしたよ。何周したんだろうね」といっておばあさんは遠くを見つめた。
「そのころ、おばあさんは子供だったんだよね。一人では生きていけなかった?」
「生きていけたね。どこでひどい扱いを受けるのかっていう選択肢が無数にあった。生きてはいけたよ。子供一人になってもね」
「どこかに働きに出ずに、生きていくことはできなかった?」
「だから、さっさといえに帰れって言ってるんだ。わからないさ、お嬢さんじゃ」
「どうしてあなたは家に帰ったの?」
「ここにいる間、外の世界がどうなっているのか全く分からなかったんだ。外もループしているのか、私だけ取り残されていくのか。ここに私はずっといるときめていたといってもいい」
「うん」
「あるとき、もう一人家出してきた子がいたんだ。私と同じように粗末な服で、どこかで働かされていたのだとすぐにわかった。体をふいてやって食べ物を与えて、世話をしてやっているうちに、同じところで働かされていた人たちを思い出したんだ。それまでは、思い出すこともなかった。ここで、ご飯を食べれているのも、自分が脱出という偉業を成し遂げたからだと誇りにすら思っていた」
「それで?」
「一回、残っている人がどうなっているか見に行ってみよう。みんなでここに住もう。そんなことを考えて戻ったんだ。戻ったら、もう人ではないように見えた。あの中に自分も一緒にいたはずなのに。自分は人間でいたいと、何かがしきりに叫んでいたんだ。もうここにくることすら怖くなって、ほかのところで奉公してはたらきつづけたよ」
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