第17話

 気が付くと、少年が私の前に立っていた。小学生くらいで、ひょろっとしたやせ型の子供だった。


 「やあ、こんばんは。久しぶりにここに来たな」と、彼はお店を見回していた。

 「僕は2年前にここに来たんだ。それから一回も来なかった。去年の子は割と早く家に帰ったんだろうね」

 「一度もここにきたいとおもわなかったの?」

 「来たくなったよ」

 「じゃあ、どうして?」

 「俺の親は厳しいんだ

 ここに来た日も親と喧嘩して、死んでしまえばいいやって海に来たんだよ。そうやって心配をかけたからなのか、ただ、はけ口が欲しいのか。前者であってほしいと思うけどね。監視されているみたいだよ」

 「来てくれて、ありがとう」


 「親は君に何をくれた?」

 「ランドセル、洋服、ご飯、布団…いろんなものをもらったよ。

羞恥心、憤怒、焦燥感…いろんな感情を知ることができた」

 「それはあなたにとって必要だった?」

 「必要だと思いたくないことが多いけど、必要だった。人と話すことが怖くなった。人の言動にも自分の言動にも気をつかうようになった。小説の言葉が何となくわかる気がした」


 「僕が、君の役に立てるとも思えないけど」

 「どうして?」

 「僕は二日目には、もう帰ったんだ」

 「ずいぶん早いね」

 「うん」

 「どうして帰ろうと思ったの?」

 「冷やし中華をおなか一杯食べることができたからだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る