第8話

 朝、目を覚ますと、おじさんが冷やし中華を食べていた。

 「ほらお前の分」といって机に置かれていたお皿を箸で指さした。

 「これ、なんで?」

 「昨日、聞いただろ? ここは過去の家出少年、少女からの寄付で成り立っている。ありがたく食べておけ」

 そんなことまでは聞かなかったけど…、冷やし中華は程よく冷たくて、スクランブルエッグになっている卵が甘かった。


 今日も、ごみ袋一つ持って海を探検しながら、ごみを拾う。遊びに来ていた人が、手伝ってくれたりもした。砂浜はだんだんときれいになっていく。海は濁ったもまま変わらない。


 おじさんは、ごみを拾え、店の掃除をしろ、机をちゃんとふけ、汚れが残ってる、浮き輪に空気を入れろ、と、いつも命令してばっかりだった。親に言われると、とっても嫌だったということを思い出しても、なぜかいやにはならなかった。おじさんは、だいたい、自分のことを目で追ってずっと見ていた。作業が難しくて困っていると、口をキュッと結んで、笑いをこらえていた。

 「おじさんも、やってよ!」と私が言うと、おじさんは少し驚いた顔をしたけど、今まで見たどんな顔よりも嬉しそうに笑って、助けてくれた。

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