第6話

 シャッターが開いて私は目を覚ました。外はまだ暗くて静かな波の音だけが聞こえていた。


 まだ暗かったので、入ってきた人の顔は見えなかったが、おじさんではない気がした。


 部屋の明かりがついて、入ってきた人の姿がはっきりと見えるようになると、底には一人の青年が立っていた。きれいな黒髪で色黒、黒の海パン、黒のサンダル。

 「今年はこいつか」そう言いながら私に近づいてきた。

 「ここには、家出したしたやつが毎年やってくる。俺もその一人だった。さあ、君が家出をした理由は何だい? 」とそう話しかけてきた。



 「そんなに、大したことじゃないの。なんで親と一緒に暮らしているんだと思う?  

 子育てをする動物ってあまり、おおくないでしょう? 子育てができるのはそのどうぶつが強い証拠でもあるから。私たち子供は何から守られていて、何を親から学んでいるの? 

 家出をしたあなたは、そのあとどうしたの?」


 「お前は家出というより、たびに出たんだな。

 俺は、親から…暴力を受けていたんだ。お前にはわからないだろうけど、結構よくある話だったりする」

 「親からあなたは何を学んだ?」

 「暴力は痛いってこと」

 「親じゃなくても、教えてくれるんじゃない?」

 「そうかもしれないけど、俺は親から学んだ」


 「ほかには?」

 「一枚の毛布がとっても強い存在だったりすること」

 「どういうこと?」

 「その一枚で、俺は感情のコントロールができるようになった。幼稚なやつだって笑われてもいいさ。感情のコントロールができなくなるくらいならそれくらいなんてことない」


 「何から守られていた?」

 「なんだろうな…。面倒な手続きとか」

 「それは親にしかできないこと?」

 「子供には少し難しい」

 「どうして、大人はできるの?」

 「説明を理解できるようになるからだよ」

 「人間は強い生き物だと思うんだ。社会というものを作って、協力して生きられるようにしたでしょ。でも、子供が一人になっても、生きやすい世の中からは遠ざかっている気がするんだ」

 「人間が強いなんて言うのは幻想だよ」


 「旅と家出の違いは何?」

 「旅は、目的がある。家出は逃げることだ」

 「逃げるから怖くなるんだって、お父さんは言っていたよ」

 「…そうか。逃げる前から怖いから、逃げるんだ」

 「だよね…」

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