第4話

 それから、おじさんは私に売り物の麦藁帽をかぶせてくれた。ぶかぶかで、目に少しかかったけどうれしかった。


 それからまた、私はアイスの横の定位置について座った。ギリギリまだ日が当たらなくて涼しかった。お昼も過ぎて、すこしおなかがすいていたけどじっとこらえた。ビーチに遊びに来ている人も朝より増えて、数人でサンドイッチを食べたり、自分でも知っているテイクアウトのお店のお弁当をつついていた。

 

 一人の男の子が、父親を無理やり引きづるようにして海の家へ近づいてくる。

 「この浮き輪が欲しいの」そう言いながら少年が指さしたのは、戦隊もののプリントがされた子供用の小さめの浮き輪だった。買って、買ってと父親の手をぶんぶん降っている。仕方がないなあ、と気の弱そうなその父おやは短パンのポケットから財布を取り出した。


 おじさんが、レジで会計をし、浮き輪を手渡す。そこで、私はすかさず空気入れを差し出し、さっそく封を開いている浮き輪に空気を入れてやった。

 「お前、よくやるな。忍者っぽい、いや、くノ一か…」そう言っておじさんは食べかけの焼きそばを私にくれた。少年は浮き輪に取り付けられたひもを父親にひかれながら海の上をぷかぷか浮いていた。

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