第3話

 アイスの冷却器の横に張り付いているのはすずまりたいからではない。冷却器というのは外側まで、冷たくはない。私が、狙っているのは…あっ、さっきのおじさんが来た。

 

 うるうる、上目遣い

 ここで言葉を発してはいけない、あくまで向こうから話しかけてくれるのを待つのだ。

 「家出か、夏やすみそうそうとは珍しいな」そう口では言うものの、珍しくもないのか店の奥へ引っ込んだ。レジ奥の休憩室で、パイプ椅子に座りながら煙草を吸っている。


 拾ってきた貝殻を並べて時間をつぶす。大きい順に、小さい順に、そうしているうちに、一人の少年が祖父らしき人に手を引かれてみ出に入り、棒付きアイスを一つ買っていった。私はその様子をじっと見つめる。少年の小さな手に袋の水滴が滴っていた。


 私がまだいることに気が付いたおじさんが

 「家出したくなることくらい、誰にでもあるよな」といった。そして奥にはいるとレジ袋を持ってきて、

 「おい、お前、やることないんだろ。これに海のごみとって来い」とそういった。


 私は海へ駆け出し、ひたすらごみを拾った。海岸に打ち上げられたペットボトル、誰かが捨てた吸い殻、忘れられたビーチサンダル…これらが海を汚してきた。ひたすらごみを拾っているとすぐに袋はパンパンになって拾えなくなってしまった。海の家のごみ箱に中身を入れて、また、ごみを拾いに行く。今度はもっと海の家から遠い所へ、そうしているうちにだんだんと袋は伸び、拾ったプラスチックの破片が刺さってついに破れた。とぼとぼと、海の家へ戻る。遊びに来ていた人たちはだんだんと増えてその眼が自分を見ているような気がしたけど、おじさんの目がサングラス越しに自分を見ていることこそが重要だ。


 おじさんは、海を駆け回る自分をずっと見ていたので、私が帰ると

 「よくはたらくな」といって私の手の中のごみ袋と引き換えにアイスを一つおごってくれた。

 おじさんと味違いのオレンジのシャーベットが口の中でジュワッと溶けた。

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