#自室に死を飼っている

「人を刺すなら言葉に限る。

 物質的証拠になりうる可能性は低いし、

 問いただされても

『そんな意味合いで言ったんではなかった』

 と言ってしまえばいい。

 刺してやったという達成感が体に残らないのは癪だがね」


 かつて、安酒に酔った先輩が語っていた言葉が蘇る。

 ああ、確かに言葉は凶器になり得るのだ。

 貴方が「わたしを捨てる」という言葉でわたしの心は傷付いたのだから。

 そして、言葉の凶器は、狂気をも呼び起こすのだ。


――ああ、わたしも、言葉で貴方を刺せば良かったな。

そうしたら、後のことも簡単に済んだのに。


 誰もいない部屋で呟く。

 血に塗れた両手と、床に倒れ込む貴方「だったもの」を見下ろして。





※指定された様々な書き出しの中から一つ選び、作品を作るという企画でした。

私が選んだものは「人を刺すなら言葉に限る。」です。

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