第34話妹とバレンタインと本命チョコ
「お兄ちゃん……可哀想に……」
「哀れむのやめろや!」
本日は2月14日、と言うわけで冒頭の会話の意味は大体察していただけると思うので心の傷をえぐるように深く詮索はしないで欲しい。
「ホラお兄ちゃん、欲しいんでしょ! お願いしてくださいよ、私に!」
「家族から貰ったからなんだっていうんだよ……それはそれでむなしいだろ」
俺が思った以上に落ち込んでいることに気付き流石の妹といえども少し優しくなる。
「全く……私がお兄ちゃん向けのチョコを用意していないとでも思いましたか?」
「え?」
俺が貰えるのだろうか? そもそも妹からの家族チョコをカウントに入れるのかは怪しいところだが貰えるんなら嬉しい事に変わりはない。
「ほら、お兄ちゃん……ちゃんと本命ですよ……というかコレ一個しか用意してないんですからちゃんと大事に食べてくださいよ?」
妹が赤色に白のリボンのついた小箱を渡してくる。
コレがチョコ……家族チョコだとかそんなのは関係ない妹が俺のためだけにくれたチョコ……
「ありがとう! 本当にありがとう!」
しかし妹は少し不機嫌だ。
「しかしお兄ちゃん……私以外からもチョコを貰おうとか考えてたんですか?」
据わっためで聞いてくる……そりゃ確かに少しは期待したさ……無理だと分かっていても小数点以下の可能性に欠けるのが男の子だ。
「お兄ちゃんにチョコをあげるのなんて私くらいしかいないことをいいが現認めた方が傷つかずに済みますよ……忠告はしましたからね!」
失礼な! 俺にだってチョコをくれる女の子くらい……そう考えて一人も顔が思い浮かばないという悲しい事実に打ちのめされる。
「私が一生あげますから……それで我慢しましょう……ね!」
俺がチョコを一生もらえないと宣言したところで妹は早く箱を開けろとせっついてくる。
俺が包み紙を破らないように開けると箱の中にはハート型で「dear brother」とデコレーションされたチョコがあった。
妹からもらうには少々重い気もするが俺を愛してくれるならそれはそれで嬉しいことだな。
パキッ
チョコをかじる、甘さで歯が溶けるんじゃないかと思う糖度だった。
口の中が甘みで満たされ人噛みで満腹になりそうなくらいだった。
「どう……かな……」
妹がそう聞いてくる、なんだ、答えなんて決まってるじゃないか。
「最高に美味しいぞ、ありがとな」
「そうでしょうそうでしょう! 私が丹精込めて作りましたからね! お兄ちゃんが私を好きになるのももう決定した未来と言ってもいいでしょう!」
それは言い過ぎな気もするが、現実問題俺には妹しかいなかった。他の誰かを考えることができず……ただひたすらに砂糖のように甘いチョコをかじっているのだった。
……うーん……ちょっと盛りすぎたかな……?
まあでもお兄ちゃんは私のものですし、早いか遅いかの違いだけでしょう……
というわけで何も問題は無い!
そうして途切れる意識のさなか、妹が何をしようとしていたのかはしばらく昏倒した後で知ることになるのだった……
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