第32話妹とお兄ちゃんとファッション

「お兄ちゃん……暑くないんですか?」


 初夏の折、さんさんと日差しが照りつけてくる季節にいたって俺は……冬物を着ていた。


 暑くないのか? そう思われるだろう、実際暑い。

 だがそれには理由がある。

「しまむらがまだセールやってないんだよ」


 妹のマジかコイツと言う視線が痛い。

 だがちょっと待って欲しい、安価にまともに着られる服が売られているしまむらで服を買うことの何が悪いのだろうか? むしろ資本主義の犬たるブランドショップで買うよりお金の有用な使い道では無いだろうか?


「お兄ちゃん……服くらい買ったげますよ?」


「俺はしまむらでいい」


「そんなこと言って季節ギリギリまで粘るから毎年クソダサ服なんじゃないですか! 私がコーデしてあげるのでせめてユニクロに行きましょう!」


「やだよ高いもん」


 ユニクロは高い、それのどこに疑いようがあろうか?

 服というのは暑さ寒さがしのげて、破れない程度の頑丈さがあればいいだろう。

 そこに誰それが作ったなどと言う『ブランド』に価値を見出すことはない、素材の味で勝負することこそ正義ではないか。


 妹が絶句している。いや俺はおかしな事は言ってない。


「お兄ちゃん……うぅ……ごめんなさいね……気を遣わせて」


 何やら俺が気を遣って安くあげようとしていると思っているようだ。


「いや、金があったら漫画やラノベに使うぞ、服は浮いた金で買うものだ」


「えぇ……」


 妹が理解できないものを見る目で見てきている。


「いや! 普通はおしゃれに気をつかったりダサい服だと嫌でしょ!」


「いや全然」

「即答!」


 それからしばらく、『お兄ちゃんはおしゃれに気を遣うべき』と懇々と説かれた。


「お兄ちゃん、人間は無駄なものでも楽しめる生き物なんですよ……?」


 無駄なんじゃん……とは言わないだけの分別はある。

 しかしおしゃれねえ……1ミリたりとも興味がわかんな。


「はぁ……しょうがないですね、私がお兄ちゃんの最低限の服は買ったげますから行きますよ」


「えっ! ちょ! まって!」


 俺は妹に手を引かれるがまま駅前のセレクトショップに来ていた。


 ――そして着せ替えタイムが始まった


 よく分からないブランドの服に次々と着替えさせられる。


 結局どこでも売ってそうな白いポロシャツと黒のデニムを買っていた、支払いは妹。


「なあ、これってどこでも売ってそうなんだけど……それこそしまむらやユニクロでいいんじゃ……」


「物が違うんですよ物が!」


 その一言で押し通されてしまった。

 そして最後に『これでどこに出しても……は言い過ぎですけど私と並んでてもいい感じですよ』、と言うわけで自信を付けるためにデートしましょう!


 ――翌日


「なあ……そんなにいつもの服と違うのか?」


 俺はそんな不安でいっぱいだった。

 だって今まで服は微課金で通していたのだから上だけで5桁のお値段の服など買ったことがなかったし、それをポンと買う妹にも尊敬さえ覚えた。

 なお俺なら浮いた金でCPUを上位グレードにした方がいいんじゃないかと言う提案をしたら『バカか君は』という反応だった。


「大丈夫! 私と並んでても違和感ないですよ!」


「そ、そうか」


 そうして映画館に着いた、俺は今流行のアニメでも見ようとしたところ妹に単館上映している誰も知らないような映画に連れ込まれた。

 よく分からん映画を見たあと昼飯に牛丼でも食おうかと思ったところおしゃれなパスタを食べる羽目になり、それからもいろいろと妹の独壇場だった……


 ――ホラねお兄ちゃん、楽しいでしょ!

 それは確かに俺を思っての笑顔だったし、俺を思っての行動に対して俺は……

 ――そうだな、すっげー楽しかったぞ!

 と言ったのだった。

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