第30話妹と禁断の質問

「ねぇお兄ちゃん……」


 何やら妹が質問があるような聞き方で話しかける。


「なんだ?」

 どうせたいしたことじゃないだろうと思って俺も気軽に返す。


「お兄ちゃんって、ぼっちなんですか?」


 思わぬ危険球が飛んできた。


「ぼぼぼぼぼっちちゃうわ!」


 ぼっち特有のコミュニケーション能力のなさを遺憾なく発揮した返答だった。


「ふ~ん……」


「何とか言えよ! 無言だと余計悲しくなる!」


 しょうがないという感じで妹は俺の背中を叩く。

「まあ人間不得意なことがあるのはしょうがないと思うよ?」


 畜生、傷をえぐりやがって! 人権って知ってるのか!


 言葉のビーンボールが飛んできて少し慌ててしまった、まだ兄としての威厳は失われていない……はず。


「お、俺は信用できる人間は厳選するタイプでな、たまたま、そう! たまたま信用のおける奴がいなかっただけだ」


 妹の目は思いっきり訝しげだ。

「なるほど、つまりお兄ちゃんには私しかいないわけですね」


 なんでそうなるかなぁ!

 いるよ! 友達! いる……んじゃないかな、多分。


「人をぼっちの可哀想な奴みたいにいわないでくれ」


「いえ、そんなことは言ってませんよ、むしろ私がいるからお兄ちゃんは一人じゃないじゃないですか?」


「そうか……?」


 友人兼兄妹、妹ってそういうモノだっけ?


 妹は悠然と優越感に満ちあふれた雰囲気を出している。


「そういうものです、お兄ちゃんは私だけのものですよ、フフフ……他の誰にもあーげないっ!」


「俺だって本気を出せば友達の一人や二人や百人くらい……」


「お兄ちゃんはアレですね、友達百人で遠足に行って百人が一緒にお昼を食べてるなか一人余った百一人目だと思いますよ?」


 精神攻撃はやめていただきたい。

 カードアニメじゃないんだから心理フェイズを多用するのはよくないぞ……


 妹はダメ人間を見る目で俺を見ている。

 うん、確かに遺憾ではあるんだが……どこかその視線にゾクゾクするものがある自分を否定できない。

 いやいや俺は普通だから! 決して蔑む視線に興奮するような人間じゃないから!


「おやおやぁ……お兄ちゃん、なんか昂ぶってますか……?」


「ない! それはないから! 人の性癖を捏造しないで!」


 妹は普通の目に戻りすぐ慈しむような視線になる。


「大丈夫ですよ。たとえお兄ちゃんが特殊な性癖を持っていても、たとえ友人が一人もいなくても私の大事なお兄ちゃんには変わりないですから」


 同情されるのはそれはそれで辛い……


「あーもう! 分かったよ! ぼっちですぼっち! 俺には友人がいませんよ! 悪いか!」


「おーっと、開き直りましたね。大丈夫、私だけは見捨てませんから……そう……お兄ちゃんには私だけがいればいいんです」


 ヤンデレみたいなことを言い出した、うん、大丈夫、興奮なんてしてない。


「はい、だいじょーぶ・だいじょーぶ、世界がお兄ちゃんの敵になっても私だけは味方ですよー」


 頭がぼんやりとしてくる、あれ? そうかな? そうなのかな?


「はい『おれはいもうとがだいすきです』りぴーとあふたーみー?」


「はい! 俺は妹が大好きです」


「よろしい」


 パンッ

 と妹の手が叩かれて目が覚めた、あれ? 何をして……なんて言ったんだっけ……? 分からない……


 妹は始終にこやかな微笑みを湛えている、それがたまらなく嬉しくて何故か涙が出る。


「よーしよし、お兄ちゃんは私のものですからねー……」


 妹に抱擁される、何故だろう? 恥ずかしさが沸いてこない……あれ? これでいいんだっけ?


 そうして俺は考えるのをやめ、妹に全てを委ねたのだった。

 ――(観察者備考)以降は記録に残っていない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る