第29話妹とキーボード
「お兄ちゃん、キーボードください!」
いつもいつもコイツは俺に頼ってるな……いやまあいいよ、別に。
「で、どう壊れたんだ?」
まーた壊れたのか、先日はUSBPDの給電用のケーブルを踏んでコネクタを壊していた。
ACアダプタはかなり高いのでもう勘弁して欲しいのだが……
「実はジュースを飲んでたんです……」
「大体分かった」
キーボードにこぼしたな……俺もやったことがあるからあまり人のことは言えない。
確かコイツが使ってるのはメンブレンのJISだったな、ノーブランドのやつだから……
「ほれ、これやるよ」
俺は使っていないキーボードを渡す。青軸でJIS配列だ。
俺はUS配列を使っているので必要ない。
「え! いいんですか!」
「ああ、使ってないやつだしな、キーボードなんて使ってなんぼだろ」
妹が嬉しそうに受け取る。
使ってないものを快く受け取ってもらえて俺も少し嬉しい。
「このキーボード新品みたいですけど……もらっちゃっていいんですか?」
「いいよ、それ使ってないキー配列だから」
妹はよく分かっていないようだったが、とにかくもらえると言うことは分かったらしい。
「ただ、それうるさいから気をつけろよ?」
渡したのはうるさいので有名な青軸メカニカルキーボードだ、部屋の中で使う分には問題ないが他所にもってくと怒られそうなくらい音がでかい。
当然だがCherry純正ではなく、中華純正のパチ青軸である。
「うるさい?」
コイツ結構タイピングするのにメカニカル使ったことが無いのか……
「適当に打鍵してみろ」
カチャカチャカタカタ
結構な打鍵音が部屋に響く。
「ホントうるさいですねこれ」
そうだろうそうだろう、しかし打ち心地は最高なのでお勧めである。
「他所にもってかなきゃそれで足りるだろ?」
「そうですね、お兄ちゃん愛用の品ですし大事にしますね!」
買ってから部屋の隅に放っておいたことはないしょにしておこう……
「お兄ちゃんはキーボードたくさん持ってますね?」
「知ってるか? PCってパーツが余ってるとそこから生えてくるんだぜ?」
「お金はもっと有意義に使いましょうね……」
だって! 余ってるんだもん、もったいない精神だよ!
「お兄ちゃん、お礼に何かして欲しいこととか……ありますか?」
「RyzenのThreadRipperが欲しい!」
「できる範囲でお願いします!」
ですよねー
ちなみにそれは五十万円くらいするCPUです。
「って言ってもなあ……それほど大層なもんじゃないぞ」
「それでは美味しいシチュが……もとい私の誠意が伝わりません!」
なんか本音が漏れてる気がするが……
そう言われても欲しいものも無いしなあ……
「むぅ……私が何でもするって言ってるのに乗り気じゃないですね……ここはあんなことやこんなことを命令するチャンスなんですよ?」
そう言われましても……
「そうだな、ソシャゲのクエストのマルチでもやってくれるか? 今のボス課金圧が強いんだよ。無課金には辛い、お前課金してたろ?」
露骨に不機嫌になるがしょうがない、背徳的なことは世界の摂理が許さないのだから。
「しょうがないですねぇ……じゃあサクッと倒しちゃいましょう」
俺のすぐ隣に座ってスマホを取り出す。
クエストの画面を出したら、そこには星が三つ並んでいた、つまり最高成績でクリアしたということだ、一体いくらの諭吉が犠牲になったのだろう……
そうして始まったクエストだったが圧倒的な課金装備でボスが可哀想になるくらいにボッコボコにされていた。
鼻歌を歌いながら敵キャラの大虐殺をする様は恐ろしささえ感じる。
「らくしょーですね」
「俺ほぼ何もしてないな……」
本当にボス戦まで全て楽勝だった、このゲーム始めたの俺の方が早いはずなんだけどな。
こうして俺も今までクリアすらデキなかったクエストに星三つが付いたのだった……
「じゃあお兄ちゃん! またお願いがあったらその時は助けてくださいね!」
「あ、ああ」
そういって妹の背中を見送った、それから少しして、明らかにあれだけ課金する金があれば、キーボードくらい最高のものが買えることに気付くのだった……
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