第26話妹と変わるもの、変わらないもの

「お兄ちゃん、私はsystemd※が嫌いです」

※多くのLinuxディストリビューションで使われているソフト

 時は夜九時、俺の部屋でどこぞの少佐のような演説を始めようとする妹、止めておこうか……


「好きな人もいるんだからそっとしておきなさい」


 むぅ……と不服そうな顔をする。

 そうは言っても皆が望んで使われるようになったものを安易に否定は出来ない。

 俺にも思うところはあるが実際に楽だからしょうがないと思っている


 本当に嫌われているものは人気が出ない、どこの界隈だってそれは同じだ。


「でもお兄ちゃんは『一つのことを上手くやれ』に反してると思わないんですか?」


 これはプログラミングのスローガンであれもコレもと何でも出来るプログラムを一つではなく、一つの機能を持ったプログラムを複数作るべきと言う理論だ。


「まあ確かにsystemdは何でも出来るわな、でもそれは皆が望んだことだろ?」


 ディストリビューションは民主的に採用されるソフトが決まることがほとんどだ、なんであれトップの独断で採用が決まることはあまりなく、無理矢理採用すれば不平不満の嵐だろう。


「お兄ちゃんは神のようなプログラムがいてもいいと思うんですか?」


「どこかの誰かが言ってたぞ『神ほど信用できるものはいない、何せ人間が作ったんだからな』」


 ぐぬう、妹が古き良きserviceにこだわる気持ちも分からなくはない、でも時代はそれを許してくれない。

 最近フロッピードライブのサポートが終わったように、古い技術は終わりを迎える、物事は移り変わっていく。

「時代ってやつですか……」


「そうだな……いずれ32bitも動かなくなる日だってくるだろうし、BIOSのサポートさえきれるかもしれない、俺たちは変わってゆくものを使ってるんだ」


 妹はなんだか切ない表情をしている、コイツはまだUbuntuがserviceだった時代から使ってるもんな……


「なんだか寂しいですね……私の知っているものから変わっていくんですか……」


「案外人間関係の方が変わらなかったりするもんだ。少なくとも俺とお前は十年後も二十年後も兄妹だろ?」


「そうですね、私たちは兄妹ですね、「死が二人を分かつまで……」」


 妹は寂しそうに言う。


「でもいつかは終わっちゃうんですよね……私たちだっていつか死んじゃう……そんなの悲しくないですか?」


「そうかもな……でも俺は死ぬまでお前って言う妹がいることは覚えてる、それはペーパーレスになろうが判子がデジタル化されようと変わらないぞ」


 妹は毒気を抜かれたような顔になる。


「ふう……そうですね、時代の流れで変わる物もありますね……でも私たちの関係は一緒ですか……」


「コンピュータなんていつだって次の形へ移ろうものだ、人間はコンピュータが生まれてから明確な進化なんてしないだろ?」


 ふぅと妹は肩の力を抜く。


「新しいことを覚えるのも必要って事ですか……お兄ちゃんの部屋の参考資料借りていいですか?」


「もちろん」


 そうして妹は数冊のLinuxの関連書籍を持って部屋に帰っていった。

 そして俺は思う。


「変わらない物は確かにある、兄妹だった事実は永遠にも等しい……な」

 きっと多くの機械やソフトが変わっていくのだろう、俺はそれでも変わらないものを大事にしたいと思った。

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