第23話妹でも風邪を引く

「おにいちゃ……ん、おはようござ……います」


 妹からの朝の挨拶、であるのだがなんだか様子がおかしい。


「大丈夫か? なんか変だぞ?」


「私は元気ですよぅ……ぃやだなぁお兄ちゃんってば……」


 あー、これは風邪だな。


 ぴとっ


 おでこを付き合わせる、熱がこちらへ伝わってくる。


「大分熱いな……今日は休め」


 妹はわなわなしながら口をパクパクさせている。


「おおおお兄ちゃん!? 私のおでこに……恥ずかし……ぷしゅぅ」


 熱が上がったらしくふらふらになっている。


 俺は妹をお姫様抱っこで部屋まで運ぶ、その間コイツはずっと顔を真っ赤にしてうつむいていた

 部屋に入りベッドに寝かせようとするとその手が俺のシャツをぎゅっと掴んでいた。

 その指を一本一本ゆっくり離し寝かせ終えたところでキッチンへ向かう。

 

 俺はネギをざくざく刻みながら昔々、風邪で家に一人取り残されたことを思い出す


「やっぱり、一人じゃないっていいな……」


 そう独りごちつつ、鍋にだしを入れる、ふわあと鰹だしの香りが広がる。


  シューシューとお粥を炊いていた鍋が音を出す。

 焦げ付かないように弱火にした後梅干しと鰹節を小皿に入れてからお粥をお椀に入れて完成だ。


 あのときの俺は一人だった、強がって皆を送り出してしばらくして公開した……

 一人は寂しい、だからせめて俺くらいは隣にいてやろう。


 ――コンコン

 妹の部屋をノックする。

「だれですか……」


「俺だよ、おかゆ作ってきたから食べろよ」


 途端、ドアがバタンと開いた。


「お兄ちゃん! なんでいるんですか!? 学校は?」


「休んだ、妹が風邪なら兄が休むのは当然だろう?」


 妹はプルプル震えながら涙を目尻に溜めている。


「全くお兄ちゃんは……私なんかのために……」


「お前だからだ、他の誰でもない、な」


 妹は風邪のせいか顔を真っ赤にしている。


「しょうがないですね……お粥が冷めちゃいますから部屋に入ってください」


 部屋に入るとそこは……所謂『女子力』の高い部屋だった。

 なぜ高校生の部屋にゼクシィがあるのかは気にしないでおこう……


「まったく……お兄ちゃんはシスコンですね……」


「返す言葉もない……」


 俺はシスコンである、誰がどう言おうと妹が大事だ。

 妹は髪を手でいじりながら思案している。


 そうして少し経った後、妹は俺に提案をした。


「お兄ちゃん、あーんしてください」


「え?」


「ほら早く、スプーンなら簡単でしょう?」


 妹が口をあーんと開けて待っている。俺はお粥をスプーンですくい妹の口へ運ぶ。

 ずずー、ゴクン

 少しずつお粥を食べていくその顔が真っ赤だった。


 そうして少しずつお粥は減っていき、ようやくお椀が空になった。


「はふぅ……」


 妹がなまめかしい吐息を吐いているが俺はお粥を食べさせただけだ、断じてそれ以上のことはない。


 俺はコイツを一人にするため部屋を出ようとする。

 立ち上がろうとすると空くの裾を捕まれているのに気付いた。


「お兄ちゃん……私が寝るまで一緒にいてください」


「しょうがない妹だな……」


「へへへ……そーですよー、私はダメな妹ですから」


 俺が黙って座っていると不満げな声が聞こえた。


「お話ししましょうよ! 一緒にいるんですよ!」


「いやだって寝た方が……」


「お兄ちゃんとのお話の方が大事です!」


 顔の赤さも引いてきた妹はお話を俺にねだった。


「そうだな……あのときお前が転んで泣いたときは……」


「お兄ちゃんだって私に服が破れたって泣きながらお裁縫を頼んだじゃないですか」


 気付けば二人とも笑っていた、何のとりとめも無い他愛もない話、そんな話をしている間が確かに幸せだった。


「すぅ……」


 妹の声が寝息に変わった、俺は安心して部屋を出る。

 きっと俺は妹のためならなんだってするし、妹も俺のためなら手段は選ばないだろう……


 それは歪んでいるのかもしれない、でも、たった一人のために自分の全てをなげうてるのは尊いことなんじゃないかと思うんだ。


 ――翌日


「お兄ちゃん! おはようございます! 昨日はありがとうございました!」


 昨日のしおらしい感じはどこへやら、すっかり元気になっていた。


「元気そうで何よりだな」


「お兄ちゃん大丈夫ですか」


 俺の額に自分の額をくっつける妹、顔が凄く近い。


「俺は熱は無いぞ」


 妹はふっふーんと胸を張って言った。


「お返しでーす!」


「全くお前は……」


 そして妹は最後に消え入りそうな声でこう言った。


「お兄ちゃん……ありがとね……」

 その声は誰に聞こえることも無かった。`

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