第22話妹とマッサージ、そして盗撮

「うーん……難しいですね……」


 彼女は今、兄妹モノの同人誌を描いている。

 そのほとんどが兄妹でのラブコメであるがほとんどを占める肝心のラブコメ部分で詰まっている。

 ――

「こういうときは観察ですね」


 ククク……いけないいけない、お兄ちゃんの部屋を盗撮するときはついついニヤけてしまう。

 これは取材……これは取材……言論の自由は全てに優先される……

 よし! 私のやろうとしていることは法的にも倫理的にも全く問題ないことです!


 スマホを取り出し自作のアプリを起動する、Wi-Fiで繋がっているWEBカメラのIPアドレスにアクセスすると布団で寝ている兄が画面に表示された。


「いいですねぇ、何時間見ていても飽きないです……」


 ちなみに兄は寝込んでいて微動だにしない。


 そうしてしばらく後、真っ白なタブレットに線を引き始めるのだった。


 ――兄の部屋


「わっかりやすいなあ……」


 机の下にWEBカメラがありそれのおそらく録画中を表すであろうLEDが点灯していた。


 そして俺はけだるさも相まって動くことをしていない。

 見え見えだし誰が仕掛けたかも分かっているがそれを問い詰めるほどの気力は無かった。


「ああもうめんどくせえ……」


 学校で出された大量の課題をこなした後に妹と腹を割って話し合うほどの気力なんて湧かないよなあ……


 というわけで俺はベッドの上で動かず狸寝入りをしている。

 もちろんカメラを取ることもできるし実際に取り除いたこともある……

 結果は、翌日より小さなカメラが仕掛けられていた。


 そんなわけで『わかりやすい分まだマシ』という結論に俺は至った。


 俺が寝苦しそうにしていると部屋のドアがノックされた。


 開けてみるとや案の定妹が立っている、どうしたというのだろう?


「あ、あの! お兄ちゃん、お疲れじゃないですか? その……マッサージでもどうですか……?」


 ああ、俺がベッドの上で動かなかったから心配してるのかな?


「大丈夫だ、ちょっとくたびれてるだけで……」


 それに妹が食いつく。


「それはいけません! 妹の愛情が必要な症状ですね!」


 なんだよそのピンポイントな症状は……


「一晩寝れば大丈夫だから」


「いえいえ、ここは私にマッサージさせてください! お兄ちゃんにはお世話になってますからね!」


 はて? 俺がコイツの世話をしたことがそれほどあっただろうか?

 まあいいか、引く気は無いみたいだし少し世話になるか。


「んじゃお願いしようかな」


「はいっ!」


 妹は顔を晴れやかでにして俺をベッドに押しやる。


「ほらほらおとなしく寝てくださいね! 大丈夫気持ちいいですよ!」


 俺はうつ伏せにされ背中に妹がとんと乗ってきた。

「じゃあいきますよ……」


 クニッ、グニュ

 背中をマッサージされるのだが……非常に気持ちいい……

 なんでコイツこんなに上手いんだろう……?

 そんな疑問も心地よさの前に薄れていった。


「ふぅ……はぁ……」


 何故かマッサージをしている方の妹の方が変な声を出している。


 背中をこすれる音がどことなく背徳的な気がするのは気のせいだろう、うん、気のせいだ。


 しばらくそうしていた後、俺は寝てしまっていたらしい。

 暗闇から目を覚ますと目の前に妹の顔があった……パチパチと瞬きしてみる、うん、確かに妹だ。

 頬をつねってみる、痛い、夢じゃない……ということは……


「うおわぁっ!!」

 俺は飛び起きた。

「うーん、なんですかー?」

 

 俺のパニックの原因は目をこすりながら起き上がる。

 何故か頬が上気している、え? 俺なにもしてないよね?


「あ、お兄ちゃん! おはようございます」

「おはようじゃねえよ! なに!? 俺たち一緒に寝てたの? 何も無かったよね?」


 俺がパニックになっていると妹が意味深な顔をする。


「もう、あんなことして忘れたんですか?」

 恥ずかしそうにモジモジしながら言う。


「なにもしてねえよ! マッサージしてもらっただけだろうが!」


「ちっ……覚えてましたか……」


 舌打ちをしている、理不尽この上ない……


「まあでもお兄ちゃんは年頃の女の子と一緒に寝たんだからこれはもう戻れませんね!」


「!?!?」


 俺が冷や汗をかいていると妹は寂しそうに言った。

「しょうがないですね……ええ、何も無かったです、残念ながら、ね」


「心臓に悪いからやめてくれ……」


 俺が安堵しているとコイツはさらに追い打ちをかけてくる。


「まだまだ時間はありますからね! お兄ちゃん! 覚悟しておいてくださいね!」


 そう言ってさっさと部屋に戻っていき、俺は一人自分の部屋に残されたのだった。


 ――その夜


 俺はWEBカメラの電源ケーブルを切断し、ゆっくり眠ることができた。

 その時に隣の部屋からすすり泣く声が聞こえてきたのだが多分気のせいだろう。

 そうして意識が沈んでいくなか、部屋のドアが開いた気がしたがそのときには俺の意識は途絶えていた。


 そしてその年のお盆に妹がどこへも行かなかったのはまた別の話……

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