第19話妹とモバイルバッテリー
「お兄ちゃん! モバイルバッテリー持ってないですか?」
突然妹がそんなことを訊いてくる。
「どした? 充電してくか?」
「お兄ちゃんの部屋でですか……それは大変魅力的ですが今は明日友達と出かけるのに要るんです」
友達と出かけるのに予備のバッテリーが必要な時代になってしまった世知辛いものだ。
俺は机の中から予備のバッテリーとケーブルを渡す。
「お兄ちゃんってなんでこんなに持ってるんですか?」
机の中には大量のバッテリーがある、いろいろ増えるんだよなこういうの……
「まあよく買うからな、容量もっと多い方がよかったか? それともUSBPDが要るか?」
USBPD対応機種は流石にそんなに持ってない、PD機能がつくと値段が跳ね上がるからな。
「いえ……よく分かんないですけどこれでいいですよ」
妹は納得はしたようだ。
「あの……お兄ちゃん、もしよかったら……その……バッテリーもらってもいいですか?」
「別にいいぞ、結構あるし一つくらいやるよ」
「やったあ! お兄ちゃん愛用の品ですね!」
それあんま使ってないんだが……満足しているようなので黙っておこう。
「ところでケーブルは持ってるのか?」
「え、いつも使ってる充電ケーブルでいいんじゃないですか?」
いやまあいいッちゃいいんだけど……ここは渡しとくか。
「ほら、これ使え。メインの充電ケーブル使うと無くなったとき困るぞ」
ケーブル一本しか持っていないのはあまりよろしくない、無くしたことがある(経験談)
「あ、ありがとう! お兄ちゃんに聞いてよかったです!」
そうかね。
スマホを大事にしている割には結構バックアップ体制が欠けてるなあ……
「お兄ちゃんはこのバッテリー何に使ってたんですか?」
「ああ、マイコンの給電用だよ、最近はUSB給電が増えてるんでな」
かつての乾電池で動いていたマイコンと違い最近は何でもUSBで動く、データ転送も兼ねているから便利なのだろう。
かつてのRS232Cが懐かしいがこれも時代の流れなのだろう。
「しかしこの「あんかー」って知らないメーカーですね」
普通の人はAnkerを知らないのだろうか? 少し驚いた。
俺はケーブルやバッテリーの大手メーカーであることを説明する。
「へえ……あんまり見ないから知らなかったです!」
「まあ携帯ショップとかじゃ売ってないからな、通販してると結構あるぞ」
「お兄ちゃんって通販よく使いますよね?」
「通販はものぐさに向いてるんだよ、服を買いに行く服がないときとか便利だぞ」
「?」
どうやらこのジョークは通じないらしい……
「ま、まあそういうわけでそのバッテリーはあげるから好きに使うといい」
「はい! お兄ちゃん愛用の品なので大事にします! それはもう家宝かというくらいに!」
家宝にするにはインターフェースが変わってくだろうから多分数年で電池が寿命になるかバッテリーの劣化で使えなくなるだろうな。
とはいえ本人が満足しているのでいいだろう。
「ケーブルとバッテリー、あとなんかいるか?」
「いえ! これで完璧な装備です! これでお兄ちゃんとの連絡もバッチリです!」
「え? 友達との連絡用じゃないの?」
妹は心底謎みたいな顔をして答える。
「いえ、友達とは普通に話ができますよ? 人数がそこそこいるから充電器が足りないかもって聞いたので持っていこうかと」
「ああそう……」
そしていつもの妹からのメッセージは一日に約五十通だったのが妹が家を空けたその日、メッセージが三桁を記録したのだった。
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